第72章 標的、確定
横田・統合航空宇宙防衛管制センター
衛星早期警戒網からの最新データが、即座に戦術コンソールへと落とし込まれた。戦術士官の声が硬く響く。「……リフテッド軌道更新!」
画面上、ミサイルの軌道予測線が湾曲を描き、落下予測点が鮮明になっていく。
コンソール上の赤い点が——東京湾から外れた。そして、38度線を越えて南下する。
「ターゲット、ソウル市街中心部——距離、58キロ」
発表の声に、室内の空気は一瞬にして凍りついた。
市ヶ谷・統合幕僚指揮所
巨大スクリーンに映る朝鮮半島の地図上、赤い落下マーカーがソウル市庁舎付近を指して明滅している。
日本本土への直接の脅威が去ったことに、安堵の声はなかった。誰もが、その安堵が別の場所の絶望と引き換えになったことを理解していた。
統幕長は短く息を吸い込み、米韓合同指揮系統に向けて一言。「——ソウル防空網、全火力解放」
ソウル郊外・ペトリオット部隊
PAC-3発射車のレーダードームが低い唸りを上げ、追尾ビームを目標に固定する。射撃管制員は眼を見開いたまま数字を読み上げた。「迎撃可能時間、残り38秒!」
冷気の中でも汗が頬を伝う。
日本でも、在日米軍基地でもない。その数百キロ南、ソウルの生死が、この数十秒に託されていた。