第70章 警報、列島を覆う恐慌
午前5時34分。夜明け前の列島に、電子的な警報が鳴り響いた。
全国瞬時警報システム、通称Jアラートの自動判定が、「北朝鮮より日本本土を狙った核弾頭搭載可能ミサイル発射」を確認した。
北朝鮮は数時間前、国営放送と国連代表部を通じ、「東京、大阪、横浜、名古屋を含む主要都市を報復目標とする」と公言していた。このため、警報の文面は異例の直截さを帯びていた。
午前の青空を切り裂くように、耳障りな電子音が鳴り響いた。
防災無線、スマートフォンの一斉通報、テレビやラジオの緊急割り込み放送——全てのメディアが同時に、同じ言葉を告げる。
——♪ピロリン、ピロリン——
日本中のスマートフォンが一斉に鳴動する。通勤電車では、立っていた乗客が一斉に画面を見つめ、次の瞬間、車両内は叫び声と動揺で満ちた。
『緊急速報:ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮より弾道ミサイル発射。至急建物の中、又は地下に避難してください』
東京都心。オフィス街では、会議室のプロジェクターに映し出された資料が一斉に消え、真っ赤な警告画面に変わった。サラリーマンたちが一瞬互いの顔を見合わせ、次の瞬間には机の下や廊下へと動き始める。
東京駅構内。新幹線の案内表示板が「運転見合わせ」に切り替わり、構内放送が繰り返し避難指示を告げる。
ホームの乗客は携帯を握りしめ、上空を見上げたが、もちろん何も見えない——その見えない何かが、恐怖を倍増させた。
日本海。波間に揺れる護衛艦「あたご」の艦橋で、戦闘指揮所(CIC)の表示板が赤く染まり、SPY-1D多機能レーダーが弾道飛翔体のトラックを複数捕捉。
東京駅の地下通路では、防災無線が反響し、構内にいた数千人が出口や地下街へ殺到する。
ベビーカーを押す母親が必死に子どもを抱え、階段を駆け下りる。改札口付近では小競り合いが起こり、駅員の声もかき消された。
一方、テレビ局の朝の情報番組は、急遽ニュース特番に切り替わる。
キャスターが硬い表情で繰り返す。「現在、迎撃態勢が取られていますが、着弾までの時間は極めて短いと予想されます」