第66章 霧の中のカウントダウン
米インド太平洋軍司令部/情報統合作戦センター
ハワイ・キャンプ・スミス、地下第2層の統合作戦センターは、モニター群と大型スクリーンの光だけが空間を照らしていた。
赤外線早期警戒衛星SBIRSの最新画像がアップリンクされ、北朝鮮全域に散在する発射拠点の赤いサーマルシグネチャーが一斉に浮かび上がる。解析士官が、身を乗り出すようにしてコンソールを操作する。「KN-23と推定されるTEL車両、黄海南道と平安南道で計8両。発射機周辺の地温が急上昇、液体燃料加圧の兆候あり!」
別のモニターでは、米空軍RC-135S「コブラボール」からのシグナルインテリジェンスが表示されている。「ミサイル搭載周波数帯で複数の電波発信、ただし弾頭種別の判別は不能」
東京・市ヶ谷の防衛省B1危機管理センターにも、同じデータがリアルタイムで転送されていた。
日本側当直幕僚が眉間に皺を寄せる。「発射準備は間違いないが……核なのか、通常なのか……」
米側の作戦参謀が即座に返す。「標的は?米韓か、日本か?軌道解析はまだか!」
衛星通信越しにノイズ混じりの声が重なる。「まだ推定不能。複数の弾種が混在している可能性があります。KN-23、KN-24、それと巡航ミサイルらしき低高度航跡……」
司令部の空気は、一気に冷え込んだ。ターゲットも弾頭種別も特定できないまま、発射カウントダウンはすでに始まっている。全員が知っていた——判断を誤れば、次に光るのは、地平線の向こうではなく、自分たちの都市かもしれない。