第65章 飽和攻撃開始
白頭山地下総合司令所/戦略軍作戦中枢
地下深く60メートル、外界と完全に隔絶された作戦室は、冷却装置の低い唸りと換気ファンの風切り音だけが響いていた。厚さ4メートルの鉄筋コンクリートと花崗岩は、外の世界の一切を遮断し、時間の流れすら鈍らせているかのようだった。だが、その静寂の下層には、爆発寸前の圧縮空気のような張り詰めた緊張が満ちていた。
壁一面を覆う大型状況表示板には、朝鮮半島から日本海、黄海にかけての広域戦域図が展開されている。米韓空軍基地、港湾、通信ノード、燃料貯蔵施設——そのいくつかは固有名が消され、無機質な「目標番号」だけが赤く点滅していた。そこがどこで、どの弾頭が向かうのか。知っているのは、ごく限られた層だけだった。弾頭が核か通常かすら、この室内の半数は把握していない。
戦略軍作戦部長が、硬い足音を響かせて前に進む。「全発射中隊、射撃準備完了。KN-23短距離弾道ミサイル42発、KN-24戦術弾道ミサイル40発。300ミリ多連装ロケット弾、全砲列が初弾装填完了。第一波は航空戦力展開拠点、第二波は指揮通信網……」
報告の終端で、部長はわずかに声を沈めた。弾頭種別には一切触れない。
主席の前に置かれた黒塗りのカバーが、低い金属音を立てて押し開かれる。冷間鍛造された二重認証キーが、重々しい手つきでスロットに差し込まれた。主席の表情は石像のように動かない。瞳孔だけが光を捉えて細く収束する。
「……米国と、その手先に報復を」
隣のコンソールでは、作戦部長がもう一つのキーを差し込み、時計の針のように正確な動作で回す。指先が0.5秒遅れただけで同期は失敗し、回線は遮断される。だが、両者の動きは寸分狂わず一致した。
発射命令回線、接続。
コンソール上部のインジケーターが赤から緑に変わり、電子ロックが解除される乾いた「カチリ」という音が室内に響く。その瞬間、作戦室全員の視線が表示板右下のカウントダウンに吸い寄せられた。