第64章 宮古の空に光る刃
全員がコンソールに釘付けになった。
「第一波、距離三千。パルスレーザー、撃て!」
雨宮の号令と同時に、艦体各所の砲塔から蒼白い閃光が放たれた。爆発音はない。光は直線のまま海風を裂き、目標機の機体中央部を瞬時に蒸発させる。赤外映像に映った先頭群のドローンは、中央に白熱点を生じた次の瞬間、外殻が破裂し、火球と化して海面へ叩きつけられた。破片が海面を跳ね、白い波に飲み込まれる。
「命中確認——次!」
レーザー管制員が即座に次の目標をロックし、砲塔の鏡面がわずかに角度を変える。「照準、リレー機に移行!」
再び閃光が走り、敵編隊の通信機能を担うリレー機が撃ち抜かれた。空中で破裂した電子部品が、雨のように降り注ぐ。
「第一波、撃墜率九一%。残余十一機、回避行動に移行」
「二基同時照射、焼き切れ!」
二方向からのパルスレーザー照射が、回避中のドローンを前後から切り裂く。光の刃は数ミリ秒単位で照射角を変え、次の瞬間には別の目標へと移っていた。艦内では、冷却ポンプの駆動音が高まり、冷却ミストが砲塔周辺から吹き出して白く煙る。
「冷却系温度、上限値マイナス一〇度。連射続行可能」
「光学追尾、次目標捕捉」
第二波が画面に入り込む。今度は地表近くを滑る超低空侵入。「地形マスク利用、回避パターンB」
「構わん、斜角補正で撃ち抜け!」
艦の右舷側砲塔が海面すれすれに照準を下げ、光が水面を焼き、瞬間的に白い水蒸気の柱を立てた。その背後で敵ドローンが一斉に墜落していく。
「第二波、撃墜率八九%、残余八機」
雨宮艦長は短く叫んだ。「——残りはCIWSと76ミリに任せる」
指令が飛び、艦体前後のCIWS(近接防御火器システム)が一斉に唸りを上げた。甲高い40mm級の機関砲連射音が艦全体を震わせ、曳光弾が白い軌跡を描きながら空を切り裂く。その中で、二機、三機と撃墜されていくが、わずか二機が射線をすり抜け、超低空で艦尾側へ回り込んだ。
「突破二機、艦尾方向!距離一・五キロ、接近速度マッハ〇・七!」
それは、ただ一点——大和の艦体中央部を狙っていた。艦橋の空気が凍る。
艦尾側のCIWSが最後の射角を取り、弾幕を集中させる。着弾音に近い連射の轟きとともに、二機の神風ドローンはほぼ同時に白い閃光を上げて爆散した。
「……突破機、全機撃墜。被害なし」
報告に艦橋内の空気が一瞬だけ緩むが、すぐに新たな警報音が重なる。
増援到着まで、戦いは、まだ終わらない。