第59章 宮古島東方 接近戦
艦橋の空気は、張り詰めた糸のように静かだった。
大和は尖閣と宮古島の中間海域を南下しながら、すでに独断で針路を宮古へ向けている。尖閣方面には水中自立型ドローンと海自の護衛艦を残し、1500名の中国孤立部隊を「救援待ちの囮」と見切ったためだ。
雨宮は航海長の海図上の指を追いながら、野間の報告を聞いていた。
「大友経由の盗聴記録から、防衛幕僚は“宮古は時間を稼ぎつつ米軍支援を待つ”という判断に傾いています。ですが、米空母は指揮系統から外れたまま……現実的には間に合いません」
艦長は黙って海図に視線を落としたまま、低く言う。
「ならば我々が先に殴る。敵が橋頭堡を築く前に——」
そのとき、レーダー員が顔を上げた。
「新規目標捕捉。方位095、距離180キロ、接近速度およそ20ノット。護衛艦クラス数隻と大型目標あり」
スクリーンには複数の赤い反応が点滅し、その外縁に電子妨害の兆候を示す波形が現れていた。
野間が眉をひそめる。
「敵、レーダー・リンク妨害を開始。こちらの照準を狂わせるつもりです」
雨宮は艦内通話に手を伸ばす。
「電子戦班、妨害波の周波数パターン解析急げ。CIWS・レーザーは即応態勢。砲術長、敵の護衛艦を最優先で落とす射撃計画を立てろ」
機関科からの報告が重なる。
「主機出力110%維持可能。現速28ノット、これ以上は長時間維持不可」
艦長は短く頷き、静かに呟く。
「——敵の防御網を突破する。全員、心してかかれ」
艦橋の窓外、東の海面はまだ暗く、敵影は見えない。だがAESAレーダーの中では、すでに戦いの輪郭が形を成しつつあった。




