第55章 切断された戦線
宮古島北部・陸自第15旅団 宮古警備隊
司令所の状況マップは、いまだ「敵影不明」の表示のままだった。だが、窓の外から響く戦車のキャタピラ音とヘリのローター音が、それが紛れもない現実であることを告げていた。
警備隊長である二等陸佐は、無線機に叫ぶ。「第1普通科中隊、空港南端へ急行!第2普通科中隊は平良港へ向かえ!……砲兵は?」
火力支援班長が苦渋に満ちた声で答える。「迫撃砲中隊は展開中ですが、座標データリンクが死んでいます。音響測位と目視で射撃するしか……」
— 宮古島東岸・保良漁港沖
海自のミサイル艇「くまたか」(はやぶさ型)が、波を蹴立てて高速で接近する。艦橋では艇長が、沿岸監視所からの断片的な無線を拾いながら、赤外線センサーをスキャンしていた。
「ZBD-2000歩兵戦闘車3両、浜に上がってる。76ミリ速射砲で叩く」
しかし、岸に近づけば、敵の対戦車ミサイルの射程に入る。艇は蛇行しながら射撃位置を取り、76ミリ砲の砲口炎が夜明け前の闇を切り裂いた。
— 宮古空港滑走路南端
陸自第1普通科中隊が、96式装輪装甲車と軽MAT(中距離多目的誘導弾)を展開する。立ち込める海霧の向こうに、ZTD-05水陸両用戦車のシルエットが浮かんだ。
「軽MAT、誘導開始!赤外線シーカー、ロック!」
誘導弾が低空を走り、戦車の砲塔側面に命中する。火炎が上がるが、後続の歩兵戦闘車が次々と接近してきた。
— 第5航空群 那覇基地(海自P-3C部隊)
宮古島からの通信は途絶していたが、空中待機していたP-1哨戒機が、低高度で進入を開始。機上のレーダー員が、平良港周辺の艦艇シルエットを捉える。
「こちらシーホーク01、敵揚陸艦2隻、ドック艦1隻を確認。対艦ミサイル使用許可を要請」
しかし、許可はすぐには下りない。日本の交戦規則(ROE)は、明確な防衛出動命令を必要とするのだ。
— 宮古島市中心部
市街地の外れに、陸自の高機動車が列をなす。普通科隊員が車外に飛び出し、道路に障害物を設置し始めた。その上空をZ-10攻撃ヘリが旋回し、ロケット弾の雨が交差点を削り取った。
警備隊長が、切羽詰まった声で無線に叫ぶ。「全隊、遅滞戦闘に移行!滑走路と港湾は奪われても、島全体を支配される前に本土増援を入れる!」
しかし、その「本土増援」は、宮古海峡の制海権を奪われれば届かない。