第55章 宮古海峡の朝
宮古島南東沖・中国人民解放軍 東海艦隊 先遣部隊旗艦「南昌」
薄明の水平線が灰色に染まり、海と空の境界が消えかけていた。艦橋の大型スクリーンには、宮古島の海岸線が高解像度のSAR画像で投影され、港湾、防衛施設、そして通信アンテナ群の位置が赤くマーキングされている。
作戦主任参謀が、静かに命令を下す。「電子戦部隊、周波数帯域“桜-3”への妨害開始。——宮古島全域のレーダー・通信、沈黙します」
直後、宮古空港の航空管制レーダーが砂嵐のようなノイズに覆われ、自衛隊の警戒管制所からの電波も途絶した。宮古島に駐屯する対艦ミサイル部隊は、まだ敵影を捉えられない。
艦隊司令・劉少将の声が響く。「第1梯隊、発進」
艦尾のウェルドックゲートが開き、ZTD-05水陸両用戦車とZBD-2000歩兵戦闘車を積載したエアクッション揚陸艇(Type 726)が、一斉に海面へ滑り出す。同時に、甲板上からはZ-8C輸送ヘリがローターを唸らせ、上陸予定地点の後背地へと向かった。
宮古島南岸・砂浜
波打ち際が爆炎と砂煙に包まれる。事前に撃ち込まれた30連装ロケット弾(PHL-03)と155mm艦砲が、海自の沿岸防御陣地を沈黙させていた。
防衛側の初弾は撃てないまま、揚陸艇が砂浜に乗り上げ、車両がキャタピラを軋ませながら上陸する。
上陸部隊長・張中佐が、無線で状況を報告した。「第1・第2中隊、滑走路確保。第3中隊、港湾施設へ急行。——現地防御部隊は混乱状態だ」
後方では、052D型駆逐艦の垂直発射セルから、YJ-18対艦ミサイルが発射され、石垣島方向へ飛び去る。これは、増援に向かう海自艦艇への牽制だった。
劉少将は艦橋から、宮古海峡の狭い水面を睨みつけた。「この橋頭堡を3時間で完成させる。——尖閣も、その先も、時間は我らの側にある」
海上では、赤い五星紅旗が潮風を裂いてはためいていた。