第54章 首を狩る影
日本海上空〜北朝鮮内陸/F-35C“Shadow-1”編隊
夜の日本海を切り裂く4機のF-35Cが、わずか60メートルの高度で北へ進む。機体の下には、光のない鏡のような黒い海面が広がり、HUDには、事前にISRで確定された要人移動ルートが緑色のアイコンで表示されていた。
「全機、IRステルスカバー有効。排気抑制モードへ移行。速度290ノットを維持」
編隊長の声が響く。背後では、E/A-18Gグラウラーが広域ジャミングを展開し、残存レーダーの帯域を潰し続けている。その結果、北朝鮮の残った防空部隊は「空」そのものを見失っていた。
内陸に進入。F-35Cの機首カメラが夜間赤外線モードで捉えたのは、山間部を走る車列だった。中央の装甲リムジンが、目標人物の輸送車だ。ISRが保証した±100メートル以内の位置。今まさに、目標が「射程内」に入った。
「Shadow-2、左翼のSAMサイトを処理しろ。Shadow-3と4は私と同調——リムジン狙いだ」
「了解、SEAD実行」
わずか数秒後、Shadow-2の機体下から滑り出したGBU-53/B SDB IIが、GPSと赤外線画像照合でSAMサイトの発射機を直撃した。土煙と火花が夜空に散り、SAM部隊は反撃の機会を失う。
編隊長の声が、淡々と響く。「タイムオンターゲット、マイナス5秒——投下」
2発のGBU-53/Bが、リムジンの前後に落下する。無音の滑空の後、地面で白色閃光が弾け、衝撃波が周囲を飲み込んだ。装甲車の車体は横転し、護衛車両が次々と衝突して炎上する。
熱源と動きを確認。HUDに表示された生体反応はゼロ。——作戦目的、達成。
「全機、イグレス。海上まで低高度で離脱」
再び黒い海の上へ。背後の山影には炎が広がり、その光だけが夜の空を染