第53章 沈黙する空
平壌・朝鮮人民軍総参謀部 地下指揮中枢
司令室の壁全面に張られた電光地図から、東海岸の防空シンボルが次々と消えていった。赤く点滅していた円が灰色に変わり、やがて完全に消灯する。
「……どういうことだ?東部防空区のレーダー群が一斉沈黙?予備系統は?」参謀長(人民軍中将)が、机を叩いて叫んだ。
通信士官が、震える声で報告する。「予備も応答ありません。東部第一から第三管制所と通信断。衛星回線は帯域ゼロ、短波・マイクロ波とも不通です」
「敵の電子戦か、物理破壊か——どちらだ!」
隅にいた情報分析員が、か細い声で答えた。「……両方かと。現地から断片的に入った報告では、『空が閃光に包まれ、直後に電源と無線が同時に落ちた』とのことです」
別の参謀が立ち上がる。「南東部のKN-06発射隊が、目標補足不能で射撃中止を要請しています!」
「撃て!補足できなくとも——!」
「司令!追尾レーダーが沈黙している以上、撃っても誘導できません!」火器管制参謀が、声を荒らげて反論する。
その瞬間、平壌南部の防空司令所からも通信が途絶した。防空網の「背骨」が、わずか数分で砕け散ったのだ。
「このままでは平壌上空まで——」作戦副総参謀長(少将)が、絶望的な言葉を口にしかけた。
「黙れ。最高司令部に伝えろ……東部防空区は事実上壊滅。西部隊は直ちに臨戦態勢に入れ」
参謀長の命令が飛ぶが、司令室の空気には、すでに**「空が見えない」恐怖**が満ちていた。レーダーがないということは、敵の影を視覚以外で捕捉できないということだ。
その「影」は、すでに第二波としてこちらに向かっている——誰も口には出さなかったが、全員がそれを悟っていた。