第49章 第一次攻撃
日本海・原子力空母ロナルド・レーガン/飛行甲板
夜間作戦灯の赤い光が、飛行甲板を不気味に照らしていた。デッキクルーたちのヘルメットに揺れる色とりどりの灯火が、慌ただしく動き回る。カタパルト前には、F-35Cが4機、E/A-18Gが2機、F/A-18Eが2機、整然と並んでいた。すべての機体のウィング下には、LRASM、AIM-120C、AIM-9Xが隙間なく吊り下げられている。
「全航空要員、発艦配置。全航空要員、発艦配置」
艦内アナウンスが低く響く。
航空団長ウォレスは、最終兵装チェックリストをタブレットで確認し、ケイン艦長に力強くサムズアップした。「全機、武装・燃料・IFF確認済み。リンク16データ同期良好」
ケインは短く答えた。「行け」
カタパルトクルーがしゃがみ込み、ランチャーを機体の前輪に接続する。「Steam Release」のサインが送られると、艦首側のジェットブラストディフレクターが立ち上がり、甲板後方へ高温の噴流が叩きつけられた。
夜空には海霧が漂い、赤外線センサーにはノイズが走る。しかし、ケインにとってそれは想定内だった。むしろ、この条件下での低高度侵入は、敵のレーダー網にとって悪夢となる。
1番カタパルトから、F-35C「Hammer-11」が発艦する。機首は海面すれすれに滑り込み、すぐに高度200フィートで地形追随飛行へと移行した。続いて「Hammer-12」「Hammer-13」「Hammer-14」が連続して射出されていく。
2番カタパルトからは、E/A-18G「Viper-21」「Viper-22」が離艦した。周波数ホッピング・ジャミングプログラムを事前にセットし、防空管制バンカーの周波数帯に合わせた専用パケットを搭載していた。
最後尾のF/A-18Eが夜空へと跳び、甲板の発艦シーケンスは完了した。
艦橋のケインは、作戦タイマーを「H-00:00」に合わせ、艦内通信を全チャンネル「Zulu-Black」に切り替えるスイッチを躊躇なく押した。
通信士官ダニエルズが頷く。「暗号チャンネル確立。Abort命令は物理的に遮断済み」
その瞬間、艦長の視界の隅で、Falcon-12が医務室から通信リンクを通じて艦橋に入ってきた。彼の声は落ち着いていたが、どこか遠くを見ているようだった。
「艦長……目標、移動開始しました。ですが心配はいらない。南へ3キロ、指定ルート通りです。……見えます」
ケインは迷わず指示を飛ばした。「全機、ターゲットパッケージ更新。攻撃開始時間は・・・」
ロナルド・レーガンはすでに、誰にも止められない刃となっていた。ホワイトハウスからの中止命令が太平洋を越えて届くまで、残された時間はあと3時間42分。