第44章 斬首作戦
T-27分(発艦予定まで)
日本海・原子力空母ロナルド・レーガン/艦長室兼ブリーフィングルーム
厚い防音扉が閉じた瞬間、室内の空気が一変した。もはや、この部屋は外の世界とは切り離された、孤立した戦場だった。
艦長マーク・R・ケイン大佐は、立ったまま机の端にあるタブレットを操作する。壁面のディスプレイに北朝鮮東海岸の衛星画像が映し出された。そこには、三つの赤い円が描かれ、その中心には要人の現在位置と行動予測が時刻入りで点滅していた。
「対象は三カ所。コードネームは《ナイト・ハープーン》。本来は三軸同時制圧だが——今この権限を持つのは、この艦だけだ」
士官たちの間に、一瞬の沈黙が走る。
情報担当のカールソン中佐が、ためらいがちに口を開いた。「艦長……最終実施コードは、本来、大統領しか——」
「承知している」ケイン艦長はその言葉を遮った。「しかし、必要なコードはもう俺の手元にある。方法は聞くな。公式記録にも残らない。だが有効だ。そして——そのコードは今夜限り有効だ」
士官たちの視線に、不可解さと同時に確信の色が宿る。
艦長は指先で一つ目の目標を拡大し、指示を続けた。
「第一ウェーブ、F-35Cを四機。AGM-158C LRASMを二発ずつ搭載。高度200フィートで地形を追随させろ。侵入コースは、対馬暖流の海霧帯だ。雲底は300メートル、敵の早期警戒は機能しない。最初に通信棟を叩け——防空指揮は3分で沈黙する」
航空戦担当のウォレス少佐が、無言で頷く。
「第二ウェーブ、E/A-18Gを二機。フルスペクトラム・ジャミングだ。SAMはS-200とKN-06の混成。トマホークは温存し、航空火力で直接破壊する。MiG-29とSu-25のスクランブルは6〜8分遅れる。理由は、先に航空管制バンカーを消すからだ」
作戦担当のミラー中佐が、力強く頷いた。
「作戦開始と同時に、全機・全艦通信を“ズールー・ブラック”に切り替えろ。アボート・コードは——受信しない。受信しても暗号解析に90分、そこから伝達に30分かかる。その間に、任務は終わっている」
通信担当のダニエルズ少佐が、パネルに手を伸ばす。
「地上セルは潜入済みだ。目標位置はH-30分でFix、変動は±100メートル以内。外部ISRとHUMINTの双方で保証されている。保証の意味は……諸君なら分かるな」
ケイン艦長は全員を見渡し、低い声で言い切った。
「この艦でやる。——そして、誰にも止められない」
四人の士官が同時に立ち上がり、無言で敬礼した。
外では、カタパルトから立ち上る蒸気が夜の甲板を白く染め、低く唸る音が作戦開始の時を刻んでいた。