第38章 ロナルドレーガン 動く
日本海 CVN-76「ロナルド・レーガン」艦橋
艦橋の空気は冷たく張り詰めていた。
作戦士官たちは台湾方面の戦況報告を処理しながらも、艦長席のグレイヴス大佐と、その周囲に集まる4人の士官・パイロットの異様な沈黙に気づいていた。
——彼ら5人だけが知る、80年前の“あの日”の記憶。
大和との交戦、沖縄近海の死闘、そして敗北の感触。
それが今、別の戦争に向けられようとしていた。
「ターゲット・パッケージ“Night Reprisal”——承認コード入力完了」
通信将校が小声で告げる。
それは公式作戦計画には存在しない、北朝鮮最高指導部に対する斬首作戦の呼称だった。
グレイヴス大佐は深く頷き、モニターの別ウィンドウを開いた。
そこには、日本海側の潜水艦「そうりゅう」の位置情報と、既に発令された攻撃命令のタイムカウントが進んでいた。
「敵は台湾だけじゃない。あの時のように、背後から刃を突き立てられる前に、こちらが刃を振るう」
副長が低く言った。
パイロットのひとりが顔を上げる。「斬首と潜水艦撃沈を同時に……やり過ぎじゃないですか?」
艦長は静かに答える。
「やり過ぎるくらいでちょうどいい。8時間後の今が、唯一の窓だ」
艦長は沈める潜水艦が北朝鮮の潜水艦だとは一言も言っていないことを心の中で反すうした。目標艦はそうりゅうだといえばこのパイロットはどう反応するだろうか
CICの別回線では、防衛省経由の通信が台湾危機の最新情報を流し続けていた。
宮古海峡封鎖、バシー海峡閉鎖、尖閣孤立。
だが艦長席の前のコンソールには、北朝鮮西海岸の沿岸施設と、「そうりゅう」のシルエットが冷たく表示されていた。
——ロナルド・レーガンには、二つの戦場があった。
ひとつは世界が見ている戦争。
もうひとつは、彼ら5人しか知らない戦争。
艦長は静かに黙考した。