第35章 「第二の矢」
北京・西城区、中央軍事委員会指揮センター。
スクリーンの右半分には燃え残った尖閣橋頭堡の映像が、左半分には沖縄本島南西の海域地図が映っている。赤い円が宮古島とその南北海域に重なり、その外周に「A2/AD封鎖圏」と書かれた図が浮かんでいた。
統合作戦部長が指揮卓に指を置く。その指先が、地図上の尖閣諸島を冷たく見下ろす。
「尖閣は予定より早く失った。72時間の足止めが僅か2時間足らずに短縮されたことは痛恨だが、まだ遅れは取り戻せる。次の手は宮古島だ」
海軍司令・劉海将が頷く。
「宮古島を押さえれば、宮古海峡を通る米空母打撃群は封鎖できる。台湾東岸への補給路も遮断され、日本のF-15・F-35展開は大幅に遅延する」
空軍副参謀長が慎重に口を開く。
「だが、宮古は民間人口が多い。占領は尖閣とは比較にならない国際反発を招く」
政治工作部代表が即座に返す。
「だからこそ効果がある。日本政府は必ず自衛隊の主力を本土から南西へ移動させ、台湾への直接介入どころではなくなる」
戦略支援部隊司令が地図を拡大する。
「宮古の南北に長射程対艦ミサイルを設置し、空軍のH-6K爆撃機部隊と連動させる。空母打撃群は第一列島線内に踏み込めなくなる。尖閣で試みた“視覚的足止め”ではなく、物理的封鎖だ」
羅上将(台湾戦線総指揮官)が低く言った。
「占領部隊はどこから投入する?」
劉海将が即答する。
「南沙からの部隊転用は時間がかかる。海南島の第2海軍陸戦旅団と、第3強襲揚陸艦群を直接投入する。初動で宮古空港と平良港を同時確保し、滑走路にYJ-12B発射機を展開する」
副主席が周囲を見渡す。
「国際反応は想定内か?」
政治工作部代表が淡々と答える。
「米国は即時奪還を試みるだろうが、宮古海峡の封鎖は短期であれば実現可能。我々は台湾東岸制圧までの3週間、この封鎖を維持すれば勝ちだ」
会議室の空気が、凍てつくように冷たくなった。
副主席は短く言い放った。
「——宮古島作戦、発動を検討せよ。尖閣は餌に過ぎなかった。第二の矢は、必ず心臓を射抜く」
大型スクリーンに切り替わった衛星画像には、すでに宮古島周辺の海域を行く揚陸艦群の赤いシルエットが浮かび上がっていた。