34章 帰巣
赤灯が点滅する大和の艦尾上空に、低く唸る音が近づいてきた。
海面すれすれを抜けてくる黒い機影——一機、二機、三機……やがて全ての攻撃型ドローンが帰還経路に並ぶ。
機体腹のウェポンベイは開いたままで、爆弾ラックには空のクランプが覗いている。だが、翼端の短SAMポッドはまだ半分、鋭い弾頭を残していた。
甲板クルーが誘導灯でサインを送る。
ドローンは一機ずつ減速し、可変ノズルから逆噴射音を響かせて着艦フックを下ろす。
艦尾の短いワイヤに引っ掛かると、ほとんど滑走距離を取らずに停止。即座に牽引車に接続され、静かに格納庫へと運ばれていく。
管制士が艦橋で帰還状況を報告する。
「全機帰還。損傷軽微——3番機、左主翼に7.62mm着弾痕。飛行性能に影響なし。
残弾:空対空ミサイルAAM-5改型、総計8発。20mm機関砲弾薬、残量72パーセント」
南條大尉がスクリーンを見つめたまま呟く。
「……神風ではないな。こいつらは、何度でも飛べる“空の刃”だ」
その声には、冷徹な兵器への敬意と、その兵器を扱うことの重みが滲んでいた。
格納庫内では、整備員が翼下のパイロンに新たな誘導爆弾と小型巡航ミサイルを吊り下げていた。
センサー部には防塵カバーがかけられ、赤外線・合成開口レーダー複合モジュールの光学面が、一瞬、ちらりと光る。
機体側面のパネルには、今回の任務での攻撃目標を示すマークが、淡くデジタル表示されていた。
雨宮艦長は整備状況モニターを鋭い目で見やり、短く命じた。
「再装填完了次第、再出撃に備えろ。次は対空警戒と対地制圧を同時にやらせる」
艦内に低い機械音と、油と金属の匂いが満ちる。
甲板下の暗い影の中で、再び“空の刃”たちが、次の狩りに備えて息を潜めていた。