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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン4
541/2276

33章 橋頭堡崩れる


 砂浜を離れ、迷彩ネットに覆われた電子戦車両へ走る。

 「急げ! 妨害波を出す!」

 運転席から怒鳴り声が飛ぶ。後部ハッチではアンテナが立ち上がり、青白い火花を散らす。


次の瞬間、低く唸るような振動が足元から伝わり、空気がひりついた——妨害波が全周に広がったのだ。

 管制車両からの声が、混線しながらも届く。

 《……周波数捕捉……敵制御信号乱調開始……》

 林は胸の奥に、わずかな希望を感じた。

 効いている。


 しかし、その安堵は十秒と持たなかった。

 突如、妨害波のパルスが途切れる。


 耳に届いたのは、さっきまでかき消されていた低い唸り——海面を擦るような、羽音の集まりだ。


 「妨害が切れた!? 再送信しろ!」

 電子戦班の兵が叫び、コンソールを叩く。

 別の兵が、顔を引きつらせた。

 「無理だ! リンクを……水中経由で乗っ取られてる!」

 

 海側から、黒い影の列が迫ってくる。前回より多い。二列に分かれ、海と陸から同時に橋頭堡を包み込もうとしていた。

 林の喉が勝手に乾く。

 対空火器はない——残されたのは、12.7mm機銃だけだ。

 

 「撃てぇぇぇっ!」

 機銃座が唸りを上げ、曳光弾が空をなぞる。だがドローンは蛇のように機体を揺らし、砂浜すれすれを抜けてくる。

 弾は空を切り、海風に消えた。


 最初の衝撃は、林のすぐ隣の電子戦車両だった。

 ペネトレーター弾頭が装甲を貫き、内部で炸裂。


 爆炎が青空を裂き、迷彩ネットが燃えた布片になって空に舞い、アンテナは空中で千切れて飛んだ。

 耳の奥が圧で塞がれ、すべての無線が沈黙する。


 次の標的は浜奥のHQ-17だ。赤外線弾頭が中央を撃ち抜き、真白な炎が砂浜を照らす。


 衝撃波で林の頬に砂が突き刺さり、肺の中の空気が無理矢理に押し出された。

 ドローンの機銃掃射が掩体をなぞり、砂煙と破片が雨のように降る。


 撃ち返す機銃の音はあまりにも頼りなく、林の耳には敗北を告げる無力な絶叫にしか聞こえなかった。


  遠く魚釣島の方角でも、黒煙が上がっていた。

 それが、橋頭堡の最期を示す印であることを、林はただ無言で悟った。


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