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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン4
538/2311

第30章 「砂浜の影」


 南小島西岸。砂はまだ朝の潮で湿っている。


 伍長・林啓明は、掩体用の土嚢を抱えて走っていた。

 頭上では海鳥が騒ぎ、時おり東の海面から低いうねりが押し寄せてくる。


 「早く掩体を仕上げろ!」

 小隊長が叫ぶ。背後ではHQ-17の射撃班がミサイルランチャーの仰角を調整している。


 それでも林の耳は、別の音を拾っていた——海面の向こうから、低く唸るような音。


 プロペラでもジェットでもない。もっと乾いた、風を裂くような……。

 空を見上げた瞬間、視界の端に黒い影がかすめた。


 機体は小さい。翼は鋭く、海面すれすれを滑ってくる。

 「无人机ドローンだ!」


 誰かの叫びと同時に、HQ-17が旋回しようとするが遅い。

 林の足が勝手に砂を蹴っていた。


 ゴッという鈍い破裂音とともに、南端の掩体が火柱を上げた。

 砂と石が顔に叩きつけられ、耳の奥で高音の耳鳴りが鳴りっぱなしになる。

 煙の向こうで、工兵班の三人が倒れ、土嚢と一緒に転がっているのが見えた。


 「伏せろ! 次が来る!」

 林はとっさに鉄製の資材箱の影に飛び込む。

 次の瞬間、機銃座が爆炎に包まれ、銃身がねじれて砂に落ちた。


 焼けた金属の匂いが鼻に刺さり、喉がひりつく。

 頭上を二つ目のドローンが通過する。


 海風を切る音とともに、低い警告音がHQ-17の管制車両から響いた。

 ——ロックオンされている。


 林が顔を上げるより早く、車両中央が白く光り、次の瞬間には黒い炎の塊になっていた。

 全身が砂まみれで息が詰まる。


 耳の奥で自分の心臓の音が爆撃音と区別がつかない。


 どこかで叫び声がしたが、意味が分からない。

 林はただ、もう一度来るであろう影に備えて、資材箱の影に体を押し込んだ。

 空は青いはずなのに、彼には灰色にしか見えなかった。


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