第28章 日中衝突
「分隊長、増援の揚陸艇が来ます」
通信兵の声が緊張を孕んでいる。南東の海面から、低く、しかし確かな轟音を立てて、二隻のエアクッション揚陸艇が波を蹴立てて迫ってきた。巨大なゴムのスカートが波飛沫を上げ、艇内から吐き出されるディーゼルの匂いが、風に乗ってここまで届く。
着岸と同時にランプが下り、迷彩服の兵士たちが怒涛のように砂浜に展開する。彼らは我々先遣分隊とは異なり、より重武装だった。
装甲兵員輸送車、ZBD-05。その重々しい履帯が砂を噛み、島の中央部に向けて進んでいく。車体上部の機関銃が、まるで島の新たな守護神であるかのように、周囲を威嚇する。さらに、折り畳み式の野戦レーダーや、より大型の携行ミサイルランチャーが次々と運び込まれ、島の防衛態勢が急速に強化されていく。
中国が築いた一次拠点の周囲には、あっという間に強固な鉄条網が張り巡らされ、機関銃陣地が構築されていく。もはや単なる「一時的拠点」ではない。「要塞」と呼ぶにふさわしい光景だった。
島の頂上に到達したZBD-05の砲塔が、海保の巡視船の方を向く。
「無線報告、日本側巡視船、艦名を告げよ」
スピーカーから流れる海警の無線は、明らかに先ほどよりも強圧的だった。
それに答えるかのように、海保の巡視船も無線を返してくる。
「こちらはPL-63『かびら』貴船は直ちに不法行為を停止せよ」
「かびら」は石垣海上保安部の巡視船だ。そのすぐ左舷に大型船「海保あきつしま(PLH32) が並走している。
野戦レーダーは、海保の増援部隊が合計三隻に達したことを示していた。
耳元で、北京からの新たな命令が届く。
「第二段階作戦、発動。全戦力、攻撃体制。海保、海自艦艇に先制攻撃を行う
冷徹な命令だった。それは、北京がすでに「台湾侵攻イコール対日戦争」と認識していることを意味していた。