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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン4
531/2364

第23章 尖閣上陸



 中国の揚陸艦強襲艦の鋼鉄の壁が低く唸っていた。

 船尾のウェルドックは、まだ完全には海を抱き込んでいない。塩の匂いとディーゼルの焦げた匂いが、赤色灯に照らされた兵員区画に入り込む。


 「目標——南小島、北小島。港湾構築開始。日米介入前に完了せよ」

 暗号端末から響く女性の声は、抑揚がない。だが分かっている、これは政治命令だ。返答は一語——「了解」。


 膝の上で、QBZ-191の金属がわずかに冷たい。サプレッサーの装着を確認し、弾倉を差し込む音がやけに響く。防弾ベストの内側に貼り付く汗が冷たいのは、緊張のせいか、それとも船内の冷房か。


 ドック後部のゲートがわずかに開き、外海の白波が覗く。照明がさらに落とされ、視界は赤と影に分かれる。


 「発艇、三十秒」

 小型揚陸艇の機関音が低く唸り、艇底がかすかに震える。自分の心臓がそれに合わせて速度を上げていく。


 水が侵入し、艇がゆっくりと浮き上がる。ウォータージェットの推進音は、低周波に抑えられ、腹の底に響く振動だけが伝わってくる。


 「前進、三十五ノット」

 艇首が跳ね上がり、波頭を切る。海面は月明かりを拾って鈍く光る。風が顔に刺さる。


 無線で管制から短い報告——「海警33102、南方六キロにて海保と再度接触開始」。陽動だ。こちらの影は、その背後で海面に溶けていく。


 尖閣諸島の影が、夜明けの薄青に浮かび上がる。

 「減速——電波放射最小」


 艇内のスクリーンにUAVの赤外線映像が流れる。島内には灯台跡と岩肌、カメラ二基。人影はない。

 口の中が乾く。喉を動かして唾を飲む音すら、味方に聞こえそうだ。


 ランプが下りた瞬間、潮と砂の匂いが一気に押し寄せた。

 「楔形隊形、前進!」


 膝までの砂を蹴り、岩肌を駆け上がる。背後では工兵班が折り畳み式の掩体を展開している。小型迫撃砲が砂に沈み、安定板を打ち込む音が連続する。

 灯台跡に辿り着き、双眼鏡で周囲を確認。遠く北東の水平線に、海保の船影が一つ。だがまだ距離がある。


 Z-8C輸送ヘリが低空で接近し、資材コンテナを吊ったまま、砂地に降ろして去る。

 工兵が土嚢を積み、折り畳み式の電波塔が伸び上がる。ソーラーパネルが朝日を浴び、即座に暗号通信端末が点灯。

 電磁戦班が携行ジャマーを起動し、日本側のドローン映像が途切れたことを確認する。


 赤い布が風に揺れ、灯台跡に中国国旗が翻る。

 海上には白船が近づき、「治安維持活動中」の無線を流している。

 こちらの無線には、北京からの一行だけ——「一次拠点確保、次段階へ移行可」。


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