第20章 記憶の逆流
3分間のブラックアウト後
空母ロナルド・レーガン全艦内
CICの照明が、一瞬だけ不自然に揺れた。電子機器の奇妙なノイズが響き、誰もがその違和感に気づく。
[飛行甲板/第2カタパルト付近:航空兵ジャクソン(25)]
キャットウォークの金属製の手すりを掴んだ瞬間、手の中の鉄が別の質感に変わる。油と海水、そして灼熱で焦げ付いた鉄板の匂いが鼻をついた。視界の端、白と黒の煙に包まれた巨大な影。その艦首には、見慣れない漢字で「大和」と刻まれている。
自分のF/A-18ではない。キャノピーの枠は太く、計器はすべて針式だ。機体の腹を撃たれ、燃料が漏れ出す感覚が生々しく伝わってくる。80年前の米海軍機の映像
「ジャクソン!何やってる!」
現代の整備員の怒鳴り声に、ジャクソンは現実に引き戻された。
[CIC戦闘情報センター:ソナー員メイソン(32)]
ソノグラムの波形を見つめていたはずが、突然、緑の線が「古い機械式プリント」に変わった。耳元で聞こえるのは現代の英語ではなく、別の低い声――日本語の指揮命令。80年前の米機動部隊ニミッツの艦橋
「魚雷発射!」
爆雷の連続音、圧壊する艦体の衝撃。視界が水泡で白く染まる。
目の前の現代のモニターに戻った時、彼の手は無意識に「古い型式」のソナー調整ダイヤルを回していた。
[士官食堂:補給士官アンダーソン(29)]
コーヒーカップを持ち上げた瞬間、手首から肩にかけてズシリとした反動が走る。握っているのはマグカップではなく、.50口径機銃のグリップだ。80年前の上陸用舟艇のガナー
照準の先、低空で突っ込んでくる零戦。そのパイロットの顔が一瞬はっきりと見え、次の瞬間、機銃座が爆発で吹き飛んだ。
我に返ると、コーヒーはテーブルに置かれたままで、同席していた仲間たちが呆然とした表情で自分を見ていた。
[艦橋:副長ブラント(中佐)]
艦橋の広い窓からの眺めが、不意に濃い色の荒海に変わった。艦長席の隣に立つ自分の軍服はカーキ色、肩章は金糸の菊花紋だ。外では、46センチ砲の発射炎が閃き、遠くの空には現代のF-35が撃墜されていく――時空が歪んだ光景。
「副長?」
エリオット艦長の声に振り向くと、視界はまた現代のブリッジに戻っていた。しかし、その胸中には**「あの砲撃を受けた怒り」が確かに残されていた。
艦内のスピーカーから、緊急通報が流れる。
「医療部より……頭痛、吐き気、幻覚症状が多発しています。該当者は直ちに医療部へ」
それでも、250名以上の乗員たちは、これを単なる「幻覚」とは感じなかった。
それは、自分たちが80年前に沖縄沖で、大和、海自、沖縄の日本軍守備隊との激烈な航空、対艦戦闘で生き延びたこと、そしてそこで戦死したロナルドレーガンの戦友達の記憶だった。