第19章 3分間の幻影
日本海上空・P-1哨戒機
機上カメラが自動でズームする。波間に立つ、油絵のように滲んだ巨大な艦影。艦首に刻まれた菊花紋章が、夕日に鈍く光っていた。
「……ま、まさか……」
観測士は声を抑え、ヘッドセット越しに呟く。その声には、驚愕と混乱が滲んでいた。
現代艦「大和」・艦橋
副長・雨宮遼太はモニターを凝視する。そこに映し出されていたのは、改修された現代の「大和」ではなかった。主砲塔も副砲も当時のまま、迷彩塗装が剥げかけた旧日本海軍の戦艦「大和」が、日本海を漂っている。
「沖縄へ向かう途中の姿だ。だが……なぜ今、ここに」
横に立つジャーナリスト・野間遼介は、手帳に書き込みながら、口元だけで呟いた。
防衛省・統合幕僚監部C4ISR室
レーダー画面に再びプロットが現れる。だがIFF(敵味方識別装置)は「UNKNOWN」。シルエット解析の結果は、「艦種:戦艦型(1940年代)」。解析官は絶句し、マウスを持つ手が震えていた。
米第7艦隊司令部(横須賀)作戦室
米側解析班が、光学衛星を緊急任務に切り替える。送られてきた静止画には、1945年4月の「大和」の姿が鮮明に捉えられていた。艦橋には当時の旧海軍旗、甲板には零式水上偵察機の姿まで、克明に写っている。
当直参謀の一人が、喉の奥で「無理だ……」と漏らした。この報告を、どう上層部に伝えればいいのか。
官邸会議室
防衛幕僚長からの映像転送。大画面に映し出された旧「大和」の姿に、会議室にいた数名が息を呑む。この状況は、もはや尖閣の衝突とは別の次元の事態だ。
海上保安庁・危機管理センター
尖閣沖での中国海警との激しい応酬が映るモニターの横に、この「幻艦」の映像が割り込む。オペレーターの一人が焦点を合わせた瞬間、映像はわずかに波打つように揺れ、艦影の甲板上で、乗員らしき人影が動くのが見えた。
レーダ反射が回復するとともに、大和の幻影は消失した
ちょうど3分間。「3分間のブラックアウト」に現れた過去の幻影 大和
「あれはただの幻影じゃない。——艦長、おそらくあれは……」