第18章 消える旗艦ロナルド・レーガン
日本海・北緯38度線北方120海里 — 空母ロナルド・レーガン艦橋
夕映えの海が、巨大な艦首を朱に染めていく。第7艦隊旗艦「ロナルド・レーガン」は、定速で波を切りながら北上していた。HUDの緑色の軌跡が、母艦の周囲に花弁のような円を描いては収束していく。すべては、平穏な日常の光景だった。
東京・防衛省統合司令部 C4ISR室
無音の部屋に、壁一面の大型スクリーンが鈍い光を放つ。そこには、想定された航空レーダー映像が警戒態勢を維持していた。海自P-1哨戒機からのリンクが、青色のプロットを描き出し、日本海北方の空母艦隊を示している。
「……どいうことだ。ロナルド・レーガンのIFF応答が、瞬間的に——」
男の声は、後ろからのキーボードの連打音にかき消された。
戦艦大和・艦橋
グローバルホークからの中継映像。沖縄海域から遙か北東の日本海域のレーダープロット群の中で、一つの赤い識別点がふっと消えた。副長・雨宮遼太は、即座に表示範囲を広げ、時系列リプレイを呼び出す。何かが、起こったのか?。
米第7艦隊司令部(横須賀)作戦室
壁面の戦況パネルが一瞬だけ、不気味に黒く瞬く。当直参謀が通信士官へ詰め寄る。「ロナルド・レーガン、CICからリンク16が消えた。衛星中継も——応答なし!」その瞬間、室内の空気は氷点下まで凍りついた。北朝鮮の対艦ミサイルの被弾か!
海上保安庁本庁・危機管理センター
尖閣沖の大型モニターでは、中国海警船と海保巡視船が、白波を立てて激しく押し合う映像が続く。その緊迫した画面に、別回線からの海自作戦部による緊急通報が割り込む。
日本海・海自P-1哨戒機 第33航空隊
機内の暗室で、レーダー士が思わず立ち上がる。彼の目の前のレーダー画面は、無数のプロットの中にぽっかりと空いた巨大な空白を映し出していた。北朝鮮の潜水艦からの魚雷攻撃か!
総理官邸・危機対策会議室
スクリーンにはまだ、尖閣沖のLCAC突入映像が映っている。防衛幕僚長が、短く、しかし重い言葉を宣言した。
「第7艦隊旗艦ロナルド・レーガン、レーダー・通信、全て途絶しました」
総理の表情が強張り、誰もが息をのんだ。世界が、一瞬にして均衡を失った。