第13章 市ヶ谷・防衛幕僚監部協議室
壁一面の大型ディスプレイに、航空総隊ISR室からの三分割映像が一時停止されて映し出されていた。
テーブルの上には作戦地図が広げられ、波高や潮流データ、交信記録が並ぶ。幕僚たちの指先は、落ち着きなくその上を滑る。
統合幕僚監部作戦部長(陸将補)が、重い口を開いた。「正面玄関での阻止は……ダメだ。中国に『武力攻撃事態』の大義を与えるだけ。海保との接触事案と同列で片付けられる状況に抑えなければならない」
海上幕僚監部防衛班長(海将補)が、その言葉を引き継ぐ。「……つまり、『姿を見せない排除』。——『大和』を使おう」
その言葉は、一部の極秘レベルでしか共有されてこなかった情報の公開を意味していた。
海将補は操作卓に指を滑らせ、スクリーンに4つのシルエットを浮かび上がらせる。
潜水型自立ドローン(UUV)
航続距離:最大2,000km
速度:巡航8kt/突進25kt
兵装:水中機雷散布モジュール、対揚陸艇用軽魚雷
特殊機能:艦底から水陸両用ドローンと空中ドローンの発進可能
AI:海底地形適応ルート生成、衛星経由で有人遠隔操作可能
海上型自立ドローン(USV)
航続距離:最大1,000km
速度:巡航20kt/突進40kt
兵装:76mm航空バースト砲、短距離対艦ミサイル×2
特殊機能:甲板に小型空中ドローンを搭載し、現地上空監視可能
AI:艦艇航路予測、妨害支援
空中型自立ドローン(UAV)
航続距離:最大500km
速度:巡航180kt
兵装:対人精密誘導弾(低威力選択式)、光学/赤外監視ポッド
特殊機能:群制御による多方向同時攻撃、対ドローンレーザー搭載型あり
AI:地点識別・優先度評価、ネットワーク電子戦支援
水陸両用ドローン(UUV内部搭載型)
航続距離(陸上):80km
兵装:非致死性兵器(ゴム弾、閃光音響弾)+必要に応じて短距離対装甲弾
用途:上陸部隊の展開妨害、通信設備阻止
情報本部長(空将補)が、興奮を隠せない声で論を進める。「UUVなら中国海軍の直掩艦の死角を突ける。揚陸艇の後方から推進系統を潰すか、非致死性で部隊行動を麻痺させる。USVは陽動に回し、UAVで上空を制圧する……これなら、直接発砲せずに阻止できる」
陸将補が、重い現実を突きつけた。「問題は、これを官邸にどう説明するかだ。『大和』の本当の機能は、国内でもほとんど共有されていない」
室内の緊張は最高潮に達する。
スクリーンでは、LCACの船首ランプが砂浜に下り、海軍陸戦隊が上陸する直前の瞬間が映し出されていた。
海将補の額に汗が滲む。「時間がない……決裁を」
彼の声は、もはや命令ではなく、切実な嘆願に近かった。