第12章 成層圏45,000フィート
RQ-4Bグローバルホークが漆黒の空から見下ろした群青の海面に、一本の白い航跡が斜めに走っていた。
日本の護衛艦の右舷前部からは、灰色の煙が長く尾を引いている。視点を熱赤外映像に切り替えると、被弾したその部分だけが焼けた鉄のように白く、禍々しい熱を放っていた。波に反射する太陽光は、冷たく、硬質な輝きを放っていた。
航空総隊ISR管制室は、低いブザー音に包まれていた。オペレーターたちの視線が一斉に、中央モニターに割り込んだ新しい映像フィードに集中する。男は椅子を引き寄せ、キーボードを叩き始めた。
左上には、砲撃を受けて退避する護衛艦の映像。
右下には、魚釣島南東沖で中国海警と海保の船体が接触し、白波と金属音が響き渡る応酬。
そして中央には、海面の影に隠れるように停泊する071型ドック型揚陸艦。その艦尾ランプの影で、LCAC(上陸用舟艇)のエアクッションがわずかに揺れ、黒いシルエットが甲板に並んでいるのが映し出されていた。
「……拡大。艦尾、LCACのエンジンカバーが開いている」
オペレーターの声が、静かな管制室に響く。
「赤外感知器、熱源急上昇。これは、発進シーケンスだ」
男は素早く数値を読み上げながら、画面上に二つの赤いリングを描く。一つは護衛艦の被弾位置、もう一つは揚陸艦の発進予想経路。
二つのリングは、まるで運命のように、数秒後には一つの交点を結びつけた。そこにあったのは、魚釣島の南東海岸線だった。
「こちらISR室――護衛艦への砲撃と揚陸艦の発進は、完全に同期しています!」オペレーターの叫びが、張り詰めた空気の中を切り裂く。「これは、意図的な二面作戦です!」