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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン4
516/2267

第8章 尖閣諸島

魚釣島南東の湾外は、分厚い雲が空を覆い、波高1.5mのうねりが船体を揺らしていた。


北東へ流れる0.8ノットの潮流を巧みに利用し、中国海警3305船(4,000t級)がゆっくりと日本領海線へと侵入してくる。その先には中型CCG巡視船、そして海上民兵の漁船群が待ち構えていた。全ての船が、当然のようにAIS(船舶自動識別装置)の送信を停止している。


「もとぶ」の艦橋では、航海長の声が緊迫していた。「相手、進路を東南東に維持。速度6ノット。このままでは、接触回避距離を下回ります!」


艦長は即座に命令を下す。「警告信号送信!国際信号旗、VHF16chで繰り返し!」




「こちら日本海上保安庁。針路を変更し、直ちに領海外へ退去せよ!」


VHFから返ってくるのは、無機質なノイズだけだった。応答はない。逆に、CCG船は舵を10度右に切り、進路を「もとぶ」の正面へと向けてきた。


「右15度転舵!機関後進一杯!」艦長の声が響く。


「間に合いませんっ!」航海長の叫びが、無情な現実を突きつける。


金属同士が軋む、耳をつんざくような衝撃が艦全体を震わせた。左舷の船腹に白い塗料が深く抉られ、鋼板がきしむ悲鳴が艦内に響き渡る。意図的な「バウ・アタック」だった。




衝突からわずか2分後。CCG船の艦尾デッキから、水上衝撃弾(低速弾)が二発、甲高い音を立てて発射された。「もとぶ」の艦首前方30mの海面に、白く巨大な水柱が二本、立ち上がる。


「全乗員、防弾キット装備!甲板後方、射撃準備!」


艦長の号令を受け、海保の20mm多目的機関砲が海面に向けて、短く一秒間のバースト射撃を行う。鉛色の海面に複数の飛沫が立ち、硝煙の匂いが潮風に乗って広がった。




緊迫した無線の応酬が続く。


「中国海警3305!これ以上の接近行動は国際法違反として記録する!直ちに退去せよ!」


CCG3305からの中国語の応答を通訳が叫ぶ。「我々は中国固有の海域で海難任務中だ!邪魔をするな!」


両方の艦橋内で、通訳と士官が声を荒げ、陸上の航法士がレーダー画面に釘付けになっていた。




南東からのうねりがますます強まり、双方の艦体は5〜10m以内をすれ違うたび、舷側に荒々しい白波を巻き上げる。民兵漁船群からはRIB艇を降ろす動きが見え、上陸用資材の搬入準備が始まっていた。


艦橋内の緊張は限界に達していた。次の一手を誤れば、この「接触事故」が、もはや取り返しのつかない「武力衝突」へと変わる。その予感は、確信に変わりつつあった。

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