第7章 中国 071型揚陸艦尾部
艦尾ランプの下、波の反射光が暗がりの空間に微かに揺れる。まるで、この嵐の前の静けさを告げているかのようだ。ウェルドックを満たした海水の重みが、艦全体をずっしりと沈ませている。
LCACの甲板では、海軍陸戦隊員たちが声を潜め、最後の最終確認を交わしていた。金属製のマガジンが「カチッ」と小気味よい音を立て、ZB26軽機関銃の薬室に装填された真鍮色の弾丸が、一瞬だけ鈍く光を放つ。別の隊員は、腰に下げた携帯ジャマーの出力ノブを一段だけ回し、浜辺の想定位置に合わせてアンテナの向きを微調整した。彼らの指先から伝わる感触が、この作戦の重さを物語る。
その隣で、QBU-10対物ライフルを抱えた照準手が膝をつき、呼吸を一定に保っていた。視界の端には、相棒の長い銃身が覗く。静寂の中、唯一聞こえるのは己の心臓の鼓動と、わずかに揺れる船体の軋みだけだった。
やがて、ポンプが低く唸りを上げ、海水がさらにゆっくりと艦内に流れ込んでくる。LCACの船底がほんの僅かに浮き上がり、甲板の鎖が「ジャリ…ジャリ…」と引きずられる音が、不気味なほど鮮明に響き渡る。
全員が、一斉に動きを止めた。彼らは耳を澄ます。艦の外からは、遠くかすかに海保と海警のスクリュー音が聞こえる。そして、乾いた金属が擦れ合う、まるで悲鳴のような音が続いた。もう、時間がない。
出撃の合図はなかった。隊員たちはただ、互いの顔を見合わせた。言葉は必要なかった。誰もが同じ決意をその目に宿していた。
ゆっくりとランプが上がり切った瞬間、外から差し込む光が、彼らの引き締まった顔を照らし出す。
「発進準備、完了」
その言葉は、誰に聞かせるわけでもなく、ただ静かに、冷たい空気に溶けていった。




