第5章 官邸とホワイトハウス:緊迫のホットライン
総理官邸 危機管理センター(地下2階)
壁の中央スクリーンが切り替わり、三分割された映像が現れる。左にホワイトハウスのシチュエーションルーム、中央にハワイのインド太平洋軍司令部(INDOPACOM)、右に横田基地の在日米軍司令部。暗号化された多重回線のため、映像はわずかに遅延している。
ホワイトハウスの画面に映る米国家安全保障顧問(NSA US)が口火を切る。
「総理、我々は現在、二正面の侵攻作戦を確認しました。台湾と韓国、それぞれに対して48時間以内の全面攻勢の可能性が高い」
ハワイのインド太平洋軍司令官が報告する。
「台湾周辺で中国海軍は空母『山東』を含む機動部隊を展開、DF-21D対艦弾道ミサイルの発射兆候を検知しました。朝鮮半島では北第2軍団が38度線を越え、初期攻勢を開始。我々は在日米軍基地をDEFCON 3に移行した」
官邸内の空気が一瞬、重く沈む。DEFCON 3は冷戦期以来、極めて稀な警戒レベルだ。
総理は、背筋を伸ばしたまま口を開く。
「日本の安全保障環境は、戦後最も厳しい状況にあります。我々は日米安保条約に基づき、米軍との緊密な連携を継続します。同時に、在日米軍の行動が日本本土への直接攻撃を誘発しないよう、事前協議を厳格に行うことを求めます」
横田の在日米軍司令官が画面越しに答える。
「日本海のイージス艦『みょうこう』『あたご』と米海軍駆逐艦『ミリアス』『ベンフォールド』をデータリンクで統合済み。弾道ミサイル迎撃任務を即応可能としています。ただし、台湾周辺での直接交戦権限はまだホワイトハウスの承認待ちです」
ホワイトハウスの画面に映る米国防長官(SECDEF)が短く切り込む。
「総理、ひとつ要請があります。九州南部と沖縄本島の一部空港を、米軍輸送機の前進拠点として使用したい。これは邦人避難と補給ルート確保に不可欠です」
総理は外務大臣、防衛大臣と一瞬視線を交わし、短く答える。
「条件付きで了承します。民間空港使用時は事前通告を義務付けること。そして、あらゆる行動は国際法の範囲内で」
通信が途切れる直前、ホワイトハウスの画面に米大統領の姿が映る。その声は低く、しかし明確だった。
米大統領 「我々は共に動く。時間は…もう残されていない」