第3章 開戦の夜明け
1. 都心・丸の内ビジネス街
金融街の空気は、いつもの朝のラッシュとはまるで違っていた。スマートフォンに目を釘付けにしたスーツ姿の人々が、歩みを止めてニュースアプリのライブ映像を見ている。
台湾・高雄港上空でミサイルが着弾し黒煙が広がる映像、韓国・京畿道北部の地上戦の速報
ビルの大型スクリーンは、通常の株価表示を中断し、日経平均先物の急落と円相場の急騰をリアルタイムで表示。証券会社の社員が走りながら社屋へ戻る姿が見え、タクシー乗り場には異様な静けさ
2. 新宿・歌舞伎町
ネオン街の店先には、早朝から開いているバーのテレビに群がる外国人観光客とホストたち。CNNのライブ配信を見ながら、英語と中国語と韓国語が入り混じる会話が飛び交う。
「Seoul’s under attack…」
「台湾、もう空港閉鎖だってよ」
「じゃあ成田は?」
旅行客は成田や羽田への早朝便に変更を試みるが、航空会社のアプリはアクセス集中でエラー続き。空気が緊迫しているのに、パチンコ店の開店待ちの列は、いつも通り。
3. 官庁街・霞が関
防衛省・外務省周辺では、未明から警察車両が増強され、正門前の道路は封鎖状態。スーツ姿の職員が庁舎へ駆け込み、記者たちがカメラを担いで追いすがる。官邸記者クラブ前には、「安保理招集は?」「在日米軍の動きは?」と英語、日本語、フランス語で怒号、背後で、テレビクルーが**"Breaking News – Simultaneous Conflicts in East Asia"**というテロップを繰り返し放送していた。
4. 世田谷・住宅街
朝の通勤通学時間。小学生を送り出す母親のスマホから、NHKの緊急ニュース音が鳴り響く。
《沖縄県・宮古島・石垣島周辺で中国軍機の活動活発化。自衛隊は警戒監視を強化》
スーパーは開店前から行列ができ、飲料水、カップ麺、乾電池が売り切れるとのSNS投稿が拡散。地震の時のような物資の買い占めが、既に始まる。
5. 東京駅・新幹線ホーム
構内アナウンスが「一部列車で外国人観光客による混雑が予想されます」と繰り返す。北陸・東北方面行きの新幹線指定席券売機には長蛇の列。「東京は安全だが、西日本に行きたい」という観光客と、「逆に西は危険だ、東北に逃げろ」という日本人家族の意見がホームでぶつかる。
東京の街はまだ直接の脅威に晒されてはいない。しかし、ビル街の電子看板、電車内のニュース速報、スマホの緊急アラートが、「戦争は遠くではなく、同じ時代の隣で起きている」という感覚を、否応なく人々に突きつけていた。