第143章 エピローグ①
那覇港の漁船専用バースに係留された俺の小型漁船「海神丸」は、白とグレーの軍艦の間に挟まれていた。護衛艦「むらさめ」の巨大な船体が、まるで壁のようにそびえ立っている。
エンジンをかけ、アイドリングの低い振動が体に伝わる。慎重に操縦桿を握り、狭い隙間を抜け出した。港内は、普段の活気ある漁船の往来とはまるで違う。自衛隊の補給艦や掃海艇が規則的な航跡を描き、油と潮の匂いが混じり合っている。
港湾を抜けると、眼前に広がるのは東シナ海の雄大な景色だ。しかし、今日は見慣れた景色の中にも、異様な緊張感が漂っている。空には、空自のF-15Jが轟音を響かせ、遥か上空を旋回するE-2D早期警戒機の姿も見える。
俺は、艦艇のレーダーに映らないよう、進路を慎重に選びながら沖合へ向かった。軍事的な動きとは無関係の、いつもの漁場だ。
漁場に到着し、錨を下ろす。エンジンを止めると、周りの音が嘘のように消え、波が船体を揺らす微かな音だけになった。
「さて、今日の獲物は…」
俺は、ライフジャケットを脱ぎ、ウェットスーツに着替える。モリと網、そして腰に錘をつけたゴム製のベルトを締め、呼吸を整えた。
海面は穏やかだ。しかし、その水の底に、何が潜んでいるのかは、誰にもわからない。俺は深く息を吸い込み、海中へと静かに身を沈めた。