第139 大和 宮古島海域
位置:宮古島北東沖 約40km
灰青色の海面に、遠く宮古島の稜線が霞んで見える。艦長・南條忠義は、手すり越しにその影を見つめ、短く息を吐いた。
「前方、針路そのまま。速力14ノット維持」
背後では、現代の海上自衛隊戦術士官が、護衛艦「まや」「むらさめ」からのリンク情報をコンソールに表示させている。青いアイコンは自艦、周囲の赤いリングは推定ミサイル射程圏。南條は無言で頷き、隣の副長に命じた。
「――防御態勢、第一種に移行」
CIC内は薄暗く、コンソールの多色ディスプレイが光を落としている。戦術指揮官(現代海自二佐)が声を張り上げた。
「対艦ミサイル防御:SM-2発射管スタンバイ、CIWS・SeaRAMを全周警戒モードへ。副砲レールガンは艦橋指揮下、対水上迎撃設定」
オペレーターが各種センサーを確認する。
「FLIR映像、異常なし。EOTS、方位110度に微弱反応……識別不明」
護衛艦「まや」からのリンク音声が重なる。
『こちら「まや」、同方位の反応を追尾中。ミサイル誘導波形ではなし』
第二副砲座。旧大和時代から生き延びた砲員・斎藤兵曹長は、今やレールガンのコンソールに座っていた。目の前のモニターに、数値と人工地平線が流れていく。
「……これが副砲とはな」
隣で若い自衛官が手早くパラメータを入力しながら答える。
「弾道計算はコンピュータがやります。俺たちはトリガーを引くだけです」
低周波ソナーが低く唸る。海自の対潜士官がヘッドセット越しに声を張った。
「方位295、距離4,800、微速潜航音――魚雷発射艦の可能性あり」
すぐに護衛艦「むらさめ」が応答する。
『こちら「むらさめ」、同目標を捕捉。アクティブPING打ち込みます』
音響ディスプレイ上、青い波形が広がり、潜航体の輪郭が浮かび上がる。
「識別:潜水艦、恐らく中国海軍039型」
報告を受けた南條は、すぐに判断を下した。
「護衛艦群、対潜戦闘開始。大和は速力を維持しつつ、対艦ミサイル防御を優先。――宮古島までの距離、あと22キロ」
周囲の空気は、潮風に混じって、確かに「戦」の匂いを帯び始めていた。