第137章 成田空港:非公開の脱出
一般客の目に触れることのない、成田空港第1ターミナルの北側。普段はビジネスジェットや要人便しか利用しない専用ゲートに、この朝は不自然なほど大型のバスが次々と到着していた。車体側面には、「○○外資系製薬株式会社」「在日○○商社」といった企業ロゴが並んでいる。
バスのドアが開くと、地上スタッフが乗客を降車順に並ばせ、即座にパスポートと搭乗券を配布していく。チェックインカウンターはなく、乗客の手荷物はそのままフォークリフトで駐機場へ直送される。スタッフは胸ポケットの無線機に短く指示を飛ばしていた。
「グループA、搬送開始。グループB、待機」
フェンス越しには、白地に企業ロゴが入ったチャーター機――ガルフストリームG650とボーイング737BBJが並んで駐機している。一機はソウル仁川行き、もう一機はグアム行きだ。乗客は全員ビジネスカジュアル以上の服装で、子供や高齢者も含まれるが、誰もカメラを向ける者はいない。むしろ、お互いに目を合わせないよう、下を向いて足早に歩いている。
滑走路側では、ANA系の地上スタッフが形式上の安全点検を済ませると、航空局の臨時許可証を示して機体をすぐにタキシングさせた。通常なら30分以上かかる搭乗プロセスが、この日は15分足らずで完了している。
その横を、貨物エリアから米軍のC-40輸送機がゆっくりとタキシングして通過していく。窓のない胴体が、軍事的な撤収の匂いをはっきりと漂わせていた。
地上のすべての動きは迅速だが、声は低い。ここでは、羽田のような「偶然」の出国ではなく、「決定を受けて動く」人々だけが、淡々と空を離れていくのだった。