第135章 国際宇宙ステーション 兆候検知
国際宇宙ステーション(ISS)・観測セクション
モジュールの強化窓越しに、日本海が夏の光を反射していた。
ESA所属の物理学者ハイネン博士は、コンソールに走った急激な波形の跳ね上がりに、反射的に姿勢を正す。
超高感度LIDARの照射データが赤色警告に変わり、重力勾配計の数値が0.00012g単位で上下に揺れ始めている。
瞬間的に解析ソフトが異常をフラグし、波形上に鋭い山形ピークが走った。
ハイネン博士:「……今、曲がった。座標北緯37度台、東経132度……そうりゅうとロナルド・レーガンの海域だ。Δt変動、0.31秒。これは地殻変動でも磁気嵐でも説明できない」
彼の指が止まる間もなく、計器は二度目のピークを記録。
バックグラウンドノイズのスペクトルが、一瞬だけ可視光域から赤外域へとシフトしていた。
博士は即座にNASAミッションサポート回線に暗号化パケットを送信。
同時に、ISSの通信コンソールに「DEFENSE DEPT. – PRIORITY ONE」の赤い文字が走り、米国防総省への高優先度チャンネルが自動開通した。
ステーション内の空気が変わる。
船内ファンの低い唸りと、通信ビープ音だけが、これが今まさに“世界の物理法則が歪み始めた瞬間”であることを告げていた。