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第133章 潜水艦「そうりゅう」沈底離脱
(津島海峡・深度190m)
司令室の空気は湿り気を帯び、艦内灯が暗く沈んでいる。
音だけが状況を伝える――水中電話の低いざらつき、ソナーから流れるかすかな金属的パルス、機関部の微かな振動。
ソナー員の声が沈黙を破った。
「方位三一〇、距離推定一一キロ、低速航行中。周波数プロファイル一致率79%、北朝鮮ロメオ級改造型の可能性あり」
艦長が椅子から身を乗り出す。
「AIP起動、沈底解除。速力二ノット、静粛維持」
当直士官が速力設定を確認し、操舵手が軽く舵を切る。
圧力殻の外、海底の泥を離れる振動が艦全体を通じて伝わってくる。
「潜望鏡深度への移行は?」と副長。
「まだだ。水温躍層下で接近、距離八キロまで詰める。上は商船航路だ、被探知のリスクが高い」
司令卓の中央スクリーンには、青い自艦マーカーと赤い接触マーカーがじわじわと近づく様子が表示されている。
オペレーターが囁く。
「敵速力三ノット、進路東北東、日本海奥に向かう可能性大」
艦長は無言で頷き、端末に短い暗号電を打ち込む。
「北潜一隻、追尾開始」