第132章 大和 宮古島へむけて沖縄出港
艦橋の防弾ガラス越しに、朝の光を浴びて輝く那覇港の景色が広がっている。
眼下には、かつて巨大な副砲が据えられていた場所に、整然と並んだ黒い口を開けるVLS(垂直発射システム)の96セルが、異質な静けさをたたえている。
艦首方向へ視線を移せば、巨大な46センチ三連装砲塔が、静かに東防波堤の方角を睨んでいる。その砲塔の背後には、ステルス性を意識した形状の白いCIWS(近接防御火器システム)ブロックが、無機質な存在感を放つ。
コンソールに目を落とすと、鮮やかな光を放つ**統合戦闘指揮システム(JADGE接続型)のメイン画面が目に飛び込む。旧大和には想像もできなかったであろう、複雑な航路と警戒エリアが詳細に表示されている。那覇港を出て、いよいよ戦闘海域となる宮古海峡へと続くラインが、青く光っている。
艦長、三隅一佐の声が、艦橋内に響き渡る。
「各部署、最終出港準備確認――機関室」
『機関室、回転数良好、ガスタービンおよびディーゼル双方スタンバイ完了』
スピーカーから返ってきた報告に、この巨艦の心臓部が脈動を始めているのが感じられる。蒸気タービンの時代の轟音はない。代わりに、最新のハイブリッド推進システムが、微かに、しかし確実に艦体を震わせている。
三隅は、電子スロットルレバーに静かに手を添えた。「微速前進――出せ」
その言葉と同時に、足元からじんわりとした推進力が伝わってきた。タグボートが艦首をゆっくりと押し出し、巨大な艦体が、静かに、しかし確実に岸壁から離れていく。
艦橋左舷後方、臨時記者席にいた野間が、立ち上がり、艦長に声をかけた。
「艦長、単刀直入に聞きます。この艦は、沖縄の人を守れますか?それとも……台湾に向かう米軍を支援するための、ただのおとりですか?」
三隅は野間を振り返り、厳しい表情で答えた。
「あなたの質問には答えられない。だが、歴史に恥じるような航海はしない。それだけは約束しよう」
「歴史に恥じない、ですか…」
野間は小さくつぶやき、ノートPCに向かいすぐさまその言葉を記録した。
港の外には、すでに護衛艦「まや」と「むらさめ」が、回転するレーダーを携えて静かに待機している。
三隻は、やがて見慣れた編隊を組み、いよいよ本格的な戦闘海域となる宮古海峡へ向けて、那覇港を後にした。
抜けるような青空の下、白波を蹴立てて進むその姿は、静かなる決意を物語っているようだった。