第128章 統合
ワシントン
ホワイトハウス 西棟 地下シチュエーションルーム
長机の中央に投影されたホログラム地図には、西太平洋、米本土ニューメキシコ州、そして低軌道を回るISSが結ぶ大きな三角形が浮かび上がっている。
ジェイコブズ(国家安全保障担当大統領補佐官)
「ここまで、ロスアラモスのΩ計画は理論研究として、ロナルド・レーガンは実験プラットフォームとして、それぞれ独立に動いてきた。
理由は明確だ——片方が突破口を開けても、もう一方を巻き込まないことで情報漏洩リスクを減らすためだ」
ラングリー(国家情報長官)
「しかし分離は限界だ。理論と実験は科学の両輪。今や、レーガンの観測データなしではΩ計画の数式は完成しないし、逆もまた然りだ」
シルヴァー少将(宇宙軍作戦部長)
「ISSはすでにロスアラモスとデータ連携を行っている。量子干渉計実験や極低温試験は、ISS経由で何度も成功している。
つまり——既に片方の車輪はISSと繋がっている」
ジェイコブズ
「そこで、ISSを“ハブ”として使う。
ロスアラモスの理論班と、レーガン艦上の実験班を、ISS経由でリアルタイム同期させる。
これなら地上局を経由せず、敵の盗聴リスクを最小化できる」
スクリーンが切り替わる。
ISSの軌道に沿って、ニューメキシコと西太平洋を結ぶ細い赤い通信アークが描かれ、その両端に「OMEGA-THEORY(理論班)」と「GHOST CARRIER-EXPERIMENT(実験班)」と表示される。
ホルト中将(国防総省作戦計画局)
「連携が実現すれば、レーガンは航行しながら理論的補正値を即座に受け取り、現場で実験パラメータを変えられる。
逆にレーガンの計測値は、ロスアラモスのスーパーコンピュータに直接流れ込み、次の計算に反映される」
ハリス(NASA長官)
「名目は“ISSを利用した国際科学観測プログラム”とする。
国際パートナーには通常の海洋・大気データ共有として見せかける」
通信画面に現れるのは、高瀬イサム博士(Ω計画主任、日系米国人)。
背後には液体窒素タンクと量子干渉計の銀色の筐体が並ぶ。
高瀬博士
「理論と実験を繋ぐのは必然です。車輪が一つだけでは進めない。
ISSはその車軸になれる……ただし、全ての通信ログは残ります。
消すなら完全に——さもなければ、後で必ず“何を繋いでいたか”を問われます」
数秒の沈黙。
ジェイコブズは深く息を吸い、短く告げる。
ジェイコブズ
「——決定だ。ISSをハブとし、理論と実験を一つの車に乗せる。
日本には、今は知らせない」
スクリーン上の赤い三角形が明滅し、その中央のISSだけがゆっくりと回転しながら輝きを増していった。