第127章 ロスアラモス国立研究所・Ω計画クリーンルーム
極低温装置の真空ポンプが低く唸りを上げている。
モニターには、複雑な波形と艦内映像の一部が並んで表示されていた。
マーカス・レヴィ少佐(タブレットを見つめ、眉を寄せる)
「……これ、本当か? 乗員全員の脳波が、ほぼ同じ波形に揃っている?」
高瀬 イサム博士(モニターを指差しながら)
「最新解析だ。転移の直前、全員の脳波が**シータ波帯域(4〜8Hz)**で完全同期した。
時間幅はわずか3.4秒。だが、標準偏差はゼロに近い。偶然では説明できない」
エレナ・マリク博士(手を止め、目を細める)
「シータ波……瞑想や極度の集中状態で出る脳波よね。
でも全員が同時に? しかも戦闘中の艦で?」
高瀬(頷く)
「強いストレスと集中状態が重なったときの波形と一致する。
だが重要なのは、この同期が物理現象の発火直前に発生していることだ。
これは——量子転移と生体意識の相互作用を示唆する初の有力証拠だ」
マーカス(腕を組む)
「つまり、転移は単なる機械現象じゃない。人間の脳の状態が“トリガー”の一部になっている可能性がある、ということか」
エレナ(素早く端末を操作しながら)
「それなら、データリンクの遅延は致命的ね。脳波同期と物理イベントの相関をリアルタイムで計測しないと、因果関係が崩れる。
ISS経由でロナルド・レーガンと繋げば、理論と現場を同時に監視できるわ」
マーカス(即座に首を振る)
「ISSは国際ステーションだ。軍機の脳波データを通すなんて、政治的に爆弾だぞ」
高瀬(沈思しながら)
「だが、今のままでは“証拠”は集まらない。理論と実験は科学の両輪だ。
このシータ波同期現象が本物なら、Ω計画は根底から書き換わる——」
エレナ(強い口調で)
「そして、その瞬間を逃せば、二度と同じ条件は作れないかもしれない」
室内の空気が張りつめた。
3人とも、これは単なる実験の延長ではなく、人間の意識そのものが戦略資産となる可能性を秘めた発見だと理解していた。