第21章 空の死闘:F-35B、沖縄上空へ
沖縄沖での連敗、特にシュガーローフでの予期せぬ敗退と大和による海上制圧は、米太平洋艦隊司令官レイモンド・スプルーアンス大将を苛烈な決断へと駆り立てた。旗艦「インディアナポリス」の作戦室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
「沖縄での抵抗は、我々の予想を遥かに上回っている。陸上部隊の損耗は甚大だ。このままでは、本土上陸作戦『ダウンフォール』のスケジュールに致命的な遅れが生じる」スプルーアンスは、大型の戦況図を睨みつけ、苛立たしげに呟いた。「あの見えない敵、そして座礁した艦からの反撃。これまでの戦術が通用しないのだ」
参謀の一人が進言した。「大将、本土爆撃用のB-29部隊の一部を、沖縄本島の日本軍陣地への絨毯爆撃に振り向けるべきかと。あの地下壕と化した陣地群を、文字通り爆撃で根絶やしにするしかありません」
スプルーアンスは、その提案に一瞬躊躇した。B-29の戦略爆撃は、本土の軍事施設や主要都市の生産力を破壊するためのものであり、沖縄のような局地戦に投入することは、決して本意ではなかった。しかし、この異常な戦況を打開するためには、もはや常識的な手段では通用しないと悟っていた。
「よし。ワシントンへ上申せよ。本土攻撃用のB-29の一部を、即座に沖縄本島への集中爆撃に振り向ける。目標は、首里を中心とした日本軍の地下陣地、及び補給拠点だ。絨毯爆撃で、彼らを土に還せ」
スプルーアンスの声には、苦渋と、この異常な状況に対する苛立ちが混じっていた。それは、海自の介入が、別の形で悲劇を加速させていることを、彼らが理解できないままに引き起こす、新たな連鎖だった。
グアム、サイパン、テニアンの各基地では、B-29戦略爆撃機の搭乗員たちが、新たな命令を受けて慌ただしく準備を進めていた。本来、日本本土の主要都市を灰燼に帰すはずだった彼らの任務が、急遽、沖縄本島の日本軍陣地への絨毯爆撃へと変更されたのだ。
「隊長、今回の目標は沖縄本島だそうです。これまでとは規模が違うらしい」
「ああ、あの島で何かが起きているらしい。だが、我々の爆弾がそれを終わらせるだろう」
搭乗員たちは、普段と異なる任務に戸惑いながらも、その圧倒的な爆撃能力への信頼を胸に、自らの機体へと乗り込んでいく。銀色の巨体が、夜明け前の滑走路に次々と並び立つ。エンジンが唸りを上げ、プロペラが空気を切り裂く。重い機体が、ゆっくりと、しかし確かな力強さで滑走路を加速していく。
「離陸開始!」
轟音と共に、一機、また一機とB-29が大地を離れ、マリアナの空へと舞い上がった。編隊を組みながら、彼らは沖縄本島へと向かう長い飛行を開始した。彼らの巨体が放つ電波は、まだ遠く離れた海上の「いずも」のレーダーに捉えられることを、彼らは知る由もなかった。