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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン3
487/2259

第123章 任務受信


そうりゅう艦内は暗く、計器盤の緑と琥珀色の光が壁に滲んでいた。深度90メートル、速力は2ノット。潜水艦は漂うように北上している。


司令室の隅に置かれた長波受信装置が、低い唸りを響かせていた。VLF(Very Low Frequency)。海面深くまで届く潜水艦用の生命線だ。


通信士がヘッドセットを耳に押し当て、眼前のカーレコーダーのようなテープを凝視する。

「……入感。周波数安定。呉潜水艦隊司令部から」

報告の声は小さいが、司令室の空気がわずかに変わった。


艦長は静かに頷き、傍らの副長が紙と鉛筆を手に取る。暗号化された長波信号は、音ではなく、一定間隔の短い電波の脈として届く。それを手動で復調し、数字の列へと置き換える作業が始まった。

数分後、副長が復号紙を差し出す。


「任務指令:日本海方面対馬海峡監視。通過艦船特定・報告。潜伏位置は座標XX°XX’N/XXX°XX’E、深度指定あり。沈底・機関停止・音響偽装。監視期間は無期限、追尾命令あるまで行動保持」


沈底。それは、海底近くで艦を静止させ、船体から発するあらゆる音を殺す行動。海上自衛隊の潜水艦運用で、最も忍耐を要する任務だ。


艦長は命令書面を無言で読み、司令室中央のプロッターに歩み寄る。透明な海図の上、指定された座標に赤いグリースペンで小さな円が描かれた。

「機関士、準静粛態勢に移行。音響班、全周監視を強化」


命令は短く、端的だった。潜水艦はすぐに応え、主電動機の出力が下げられる。船体を震わせていた微かな振動が薄れ、代わりに耳に届くのは、船外の暗い水の圧迫音と、長波装置が奏でる低周波の脈動だけになった。


艦長は通信士の机に視線をやり、低く告げた。

「本部に受信確認、暗号返信。これより任務海域へ向かう」


数分後、送信アンテナが海面近くまで伸び、返信の短い長波パルスが静かな海に放たれた。


艦長は海図の上の小さな赤丸を見つめながら思う。


——あの海峡は狭く、音が遠くまで響く。ここで待つ者と通る者、どちらが先に相手を見つけるか。それが全てだ。


しかし、その探知対象は北朝鮮潜水艦 新浦級だけではなかった


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