第118章 解かれた鎖と船上の約束
那覇港への入港を控えた洋上。大和の艦橋は、静かでありながらも張り詰めた空気に満ちていた。艦長である三隅一佐は、横須賀の米第七艦隊司令部から送られた暗号電を読み終えると、険しい表情でモニターを見つめている。
「奴は……どこまで知っている?」
三隅の問いに、副長を務める若い士官が答える。
「すべてです。我々の計画の、始まりから終わりまで」
三隅は何も言わず、ただ厳しい表情で水平線を見つめていた。彼の脳裏には、数日前に海上幕僚監部へ送った極秘の依頼が、何の返答もないままに闇に葬られたという事実が蘇っていた。
「そちらの周辺で、ロナルド・レーガンとそうりゅうの動きに不審な点はないか」 ごく当たり前の、むしろ組織として当然の情報共有を求めたにすぎない。しかし、返ってきたのは沈黙だった。
その時、横で拘束を解かれた野間が、静かに口を開いた。
「どうだ? 君たちの知り得ない情報だろう?」
野間の手に握られたノートパソコンの画面には、日本海を航行中の大友から得た情報が映し出されていた。
『そうりゅう、再度ロナルド・レーガンと航跡を交わす。今回は意図的に次元の歪みを発生させる模様。横須賀からオスプレイで専門チームが乗艦済み』
大友からの簡潔なメッセージは、大和の艦内では決して知りえない、決定的な事実を伝えていた。
野間は、三隅に向かって真剣な眼差しを向ける。
「俺はジャーナリストだ。大和がどこへ向かい、そこで何が起きるのか、歴史的記録として残さなければならない」
三隅は、野間の言葉に耳を傾けながら、彼が提供する情報が、この航海の成功を左右するかもしれないという予感を感じていた。秘匿情報において、組織に頼れない今、リスクはあるが、メリットもある。
「……上陸を許可する」
三隅は、艦橋にいる全員に聞こえるように、はっきりと言い放った。
「ただし、条件がある。君には、君が持つ地上の情報を提供することを約束してもらいたい。再出港の際は、こちらから知らせる。それまで、自由に取材活動を続けてくれて構わない。」
「君には最後まで大和に乗艦し、この歴史的な航海の記録者となることを期待する。ただし、随時新しい情報を送付するように」
野間は、その言葉に安堵の表情を見せる。
「ありがとう。艦長の判断に深く感謝する。落胆はさせない」
二人は静かに握手を交わした。