表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン3
471/2267

第108章 意識変数

【マンハッタン・Ω計画拠点】

 ニューヨーク州ハドソン川沿いの、かつては造船所だった煉瓦の建物。

 内部は改修され、壁一面のスクリーンと量子演算ノードが埋め込まれた制御室が広がっていた。

 Ω計画の主任理論家、グレイス・コール博士は、会議卓に投影された三次元モデルを指差した。


「……時空転移の事例をすべて解析した結果、転移発生時には局所的な時空計量テンソルの変化と、広域に拡散する重力波的パルスが同時に観測されています」


 画面には、大和・そうりゅう・ロナルド・レーガンの交錯時に記録されたデータが重ねられている。

 縦軸は時空曲率変動、横軸は時間。鋭いピークが交差点で跳ね上がっていた。


「だが、問題はこれです」

 別のグラフが現れる。

 それは、現場にいた乗員の脳波データ(偶然記録されていた睡眠実験データや医療装置ログ)と、時空曲率のピークを重ね合わせたものだった。

 ——両者は、完全に同期していた。


「偶然じゃない?」と物理班のポスドクが眉をひそめる。


「統計的に偶然の確率は10⁻⁶以下です」

 神経科学チームのラファエル・ホフマン准教授が口を挟む。

「脳のシータ波とガンマ波の位相結合パターンが、曲率変動の周波数成分と一致していました。これは“外部刺激に対する感応”の領域を超えています。むしろ——場と意識が同一方程式で記述されうる可能性があります」


 コール博士がホワイトボードに式を書き始める。

 それは修正ディラック方程式とカーニハン=トンプソン型の非線形項を組み合わせたもので、右辺にψ(意識状態関数)が現れていた。


「場の方程式に、人間の意識変数が入ってくる……」と誰かが呟く。


「違うわ。時空構造の位相が変化するとき、量子的コヒーレンスを保った生体系は、その変化の一部として組み込まれるの。つまり転移現象は物理現象であると同時に、生体意識現象でもある」


 ホフマンが補足する。

「逆に言えば、“誰がそこにいたか”によって、転移の結果は変わりうる。これは軍事的にも、計画全体にも致命的な意味を持ちます」


 沈黙が室内を包む。

 数秒後、コール博士が低く言った。

「——時空は物理的な器じゃない。観測する者ごとに、形を変える鏡なのよ」


 誰も笑わなかった。

 それはSFではなく、数式が導き出した結論だったからだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ