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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン3
470/2331

第107章 密やかな通信


— 封じられた艦内で


【艦内・第2予備士官室】

 鉄と油の匂いが染みついた狭い部屋。壁の時計は動いているはずなのに、秒針の音は耳に届かない。

 ここでの時間は、外界から切り離されたように鈍く、重かった。


 机の上のマグカップは、すでにぬるい。

 その底を見つめていたとき——

 ポケット奥に隠していた小型端末が、低い振動音をひとつ漏らした。


 毛布の下に潜り込み、画面を開く。

 送信者は「H」。大友遥人。

 日本海のどこかで、チャーターしたイカ釣り漁船に乗り、米軍・自衛隊の通信をかぎ回っているはずの男だ。


《横須賀GHOST CARRIER拠点から傍受。米軍、ロナルド・レーガン、そうりゅう関連で動き活発。詳細分割送信予定》


 分割送信——つまり、これから小出しに来る。

 暗号化ファイルの第1片を解凍すると、雑音交じりの英語音声が流れた。

 〈…interference event… Soryu… Ronald Reagan… schedule…〉

 はっきりとは聞き取れないが、「干渉」「そうりゅう」「レーガン」「スケジュール」という単語が耳に刺さる。


 扉の外で足音が止まり、鍵が外される音がした。

 南條大尉と、見覚えのある航海科士官が入ってくる。


「……何か言いたいことがあるそうだな」南條の声は平板だった。


 俺はゆっくりと端末を机に置き、液晶をわざと画面ロックしたままにする。

「あります。ただし、全部を今言うつもりはない」


 士官の眉がわずかに動く。

「脅しか?」


「交渉です」

 わざと間を置き、端末に指先をかける。

「沖縄海域でそうりゅうとロナルド・レーガンが接近したとき、何が起きたか——俺は一部を知っている。その断片を、あなた方に渡す価値があるかどうか、これから判断します」


 南條は視線を外さずに椅子を引き、腰を下ろした。

「……続けろ」


 俺は笑みを抑えながら、指先で端末の画面を軽く叩いた。

「続きは、条件次第です」


 この瞬間、ただの軟禁室が、取引の場へと変わった。



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