第20章 未来への航跡:時間と存在の問い
沖縄戦線が一時的な小康状態に入り、大和と座礁艦隊による驚異的な戦果が報告される中、旗艦「いずも」の艦橋では、その静けさとは裏腹に、重い空気が漂っていた。勝利の興奮も冷めやらぬ今、彼らの脳裏を占めるのは、目の前の戦況よりも、彼ら自身の存在と、未来へ帰還できるかという根源的な問いだった。
。電子戦士官の三条律は、自身の端末を操作し、時空座標の異常を繰り返し確認していた。
「律、現在の時空座標の安定度はどうだ?これまでの介入が、我々の帰還に影響を及ぼす可能性は?」
片倉が静かに問うた。その声には、部下たちの動揺を抑えようとする冷静さが滲んでいた。
三条律は、深呼吸をしてから答えた。「現状では、タイムパラドックスの発生確率は上昇傾向にあります。これほどの規模で歴史を歪めれば、バタフライ効果は避けられないでしょう。情報の漏洩は、未来の技術や社会システムに予期せぬ影響を与えるかもしれません。
例えば、私たちが残すわずかな技術の痕跡が、未来の技術進化を加速させたり、あるいは予期せぬ方向へと歪めたりする可能性も……。最悪の場合、我々の知る**『日本』そのものが存在しない未来**が形成されることも考えられます」
歴史の改変は、単なる過去の修正ではない。それは、彼ら自身の現在、そして未来を脅かす諸刃の剣だった。
「つまり……我々は、もう元の世界には戻れないかもしれない、と?」
「断言はできない。しかし、その可能性は、日々高まっていると言わざるを得ない」
「艦長、ですが、我々はここに来た当初から、『ここで動かなければ、彼らは沈む。ただの記録となって、海に消える』ことを知っていました。そして、『この時代の日本人と、共に海を守る』という選択をしたはずです。その選択の結果が、未来にどのような影響を与えるかは、最初から覚悟していたことでは?」
潜水艦「そうりゅう」艦長の竹中二等海佐が、通信を介して問いかけてきた。
「竹中艦長の言う通りだ」片倉は力強く言った。「我々は、この介入が、単なる過去の戦争への介入ではなく、**『歴史の修正』**という、未来を護るための戦いであることを確信していた。
我々の存在意義は、未来の平和を護るという使命に基づいている。この地で、我々は確かに失われるはずだった命を救い、戦いの様相を大きく変えた。それが、この時代に我々が為すべきことだったのだ」
しかし、彼の言葉の裏には、本土への絨毯爆撃の加速や、米軍の技術進化といった、彼らの介入が招いた負の側面への葛藤が隠されていた。
「……では、我々が未来へ帰還するための方法は?」神谷一佐が改めて問うた。
作戦室には、再び重い沈黙が訪れた。