第98章 ホワイトハウスの影
ニューメキシコ州 ロスアラモス国立研究所/ワシントンD.C. NSC地下ブリーフィングルーム
【ロスアラモス】
分厚い鉛扉が閉じられた実験棟の会議室。
量子干渉解析用のスクリーンに、赤い文字が点滅している。
“UNAUTHORIZED FIELD OPERATION — YOKOSUKA NODE”
グレン・パルマー主任研究員は、読み上げる声に怒気を抑えきれなかった。
「……横須賀のGHOST CARRIER拠点が、我々の承認なしで再交差計画を動かしている」
隣の女性研究官が即座にタブレットを操作する。
「Ω計画の理論モデルはまだ67%しか完成していません。この状態で二度目の干渉をやれば——」
「時空構造そのものが壊れるかもしれない」
パルマーは吐き捨てた。
「問題は……ホワイトハウスがこれを知っているかどうかだ」
【ワシントンD.C.】
国家安全保障会議(NSC)地下のブリーフィングルーム。
照明は落とされ、スクリーンには日本近海の衛星写真が映し出されている。
ロナルド・レーガンの航跡が、ゆっくりと日本海へ向けて曲がっていた。
NSCアジア担当上級補佐官の声が低く響く。
「これは公式には“日米合同航行訓練”という建前です。しかし裏では——Ω計画の理論班を外して、横須賀が独自行動している可能性があります」
国防長官が眉をひそめた。
「大統領は承知の上か?」
補佐官は一瞬、答えを躊躇した。
「……公式記録では、承認の痕跡はありません」
「つまり、“黙認”か」
国防長官の言葉に、部屋の空気が凍りついた。