第97章 再現計画
横須賀基地・第7艦隊特別作戦室
「……再現だと?」
作戦室の奥で、米海軍研究局のカレン・マイヤーズ博士が椅子から身を乗り出した。
「時空干渉は理論上、同じトリガー条件を満たせば再発生します。問題は——条件をどう特定するか」
ハリス中佐が指示を飛ばす。
「タイムスリップ記憶を持つパイロット、コールサイン“Falcon-12”をロナルドレーガンの医務室に確保。ただちに医療チーム、認知心理士、それと暗号通信班を派遣する」
白石一佐が渋い表情を見せる。
「精神的負荷はどうする? 彼は前回の干渉でPTSD症状を悪化させている。1945年の撃墜記憶を再び刺激するのは危険だ」
マイヤーズ博士は短く息を吐いた。
「危険は承知。でも、もしあの幻影の出現が制御可能なら、我々は“過去の戦場”を偵察できるかもしれない。戦略的価値は計り知れないわ」
壁面モニターには、そうりゅうの位置が点滅している。
その点と、先ほどの幻影大和の航跡が幾何学的な角度で交わっていた。
「次の接近は48時間後、津島海峡海域——」
分析官が読み上げると、ハリス中佐は即答した。
「そこで実験を行う。条件は以下だ——」
そうりゅうとロナルド・レーガンを同一海域に接近させる
Falcon-12を艦橋に配置し、1945年の任務再現シナリオを提示
双方の艦から特定周波数帯で広域パルス送信
幻影コンタクト発生時は即座に全センサーで多層観測
白石一佐は、黙ってその計画書の電子ペンを握った。
「——失敗すれば、時空の歪みが拡大する可能性もある」
マイヤーズ博士はその危惧を無視するように笑った。
「失敗じゃないわ。これは扉を開ける作業よ」
《オールスタッフ、準備態勢へ》マイヤーズ博士は。医療チーム、認知心理士、それと暗号通信班とともに、横須賀からオスプレーでロナルドレーガンに即時移動を開始した