第96章 干渉仮説
横須賀基地・第7艦隊特別作戦室(OPERATION: GHOST CARRIER 拠点)
壁一面を覆うスクリーンに、先ほどロナルド・レーガン艦橋で消失した“幻影コンタクト”の航跡が立体表示されていた。
複雑に絡み合った赤と青の軌跡は、現代の海域図上では説明のつかない動きを示している。
作戦主任のマーク・ハリス中佐が、テーブル中央に投影された3D海域モデルを指差した。
「こちらがレーガンのレーダが捉えた“大和型”のシグナルだ。ご覧の通り、南方で消えたあと、数十秒後に至近距離に再出現している」
日本側連絡将校の白石一佐が眉をひそめる。
「通常の電波反射じゃない……これは光学的にも質量的にも存在していたように見えるが、痕跡がない」
壁際の暗がりから、情報分析官の女性が静かに口を開く。
「……一つ、仮説があります。例の“1945年の記憶”を持つパイロットが、レーガンに乗艦していた。さらに、そのパイロットは先週、ロナルドレーガンの艦内で機密ブリーフィングを受けています」
室内の空気が変わった。
誰も声を出さず、分析官の次の言葉を待つ。
「もしその接触が、何らかの形で“時空情報”を媒介していたとしたら……。艦艇の近接航路、パイロットの潜在記憶、そしてそうりゅうが搭載していたロナルドレーガンの核魚雷、その魚雷が1945年に残置され、しかも、それが再び2025年の沖縄沖で回収されたという現実が干渉し合い、局地的な時空の乱れを引き起こした可能性があります」
ハリス中佐が腕を組み、短く吐き捨てる。
「……つまり、あの幻影は“実在した過去”の大和の断片かもしれない、というわけか」
白石一佐は、スクリーンの赤い軌跡を見つめたまま呟いた。
「問題は、それが偶発なのか……それとも、再現可能なのかだ」
作戦室の天井スピーカーが低く鳴り、レーガンからの暗号通信が届いた。
《状況報告要請。GHOST CARRIER 司令部、応答せよ》
誰もが理解していた——これは単なるレーダの異常ではない。
次の一手を誤れば、“過去”が再びこの海に現れるかもしれないのだ。もし現れるとしたら、どこに?
そして なにが...
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