第93章 幻影の艦影
南西諸島南方洋上・原子力空母「ロナルド・レーガン」 CIC
「……おかしい、航跡が南にずれてる」
レーダーオペレーターが眉をひそめる。
CICの大型スクリーンには、現代の大和の航跡が沖縄へ向かって延びているはずの位置から、数十海里も離れた南方に巨大艦影のコンタクトが浮かび上がっていた。
その輪郭は――間違いなく大和型。
「IFF(敵味方識別)は?」
「応答なし……信号も旧式規格です」
艦橋に緊張が走った瞬間、レーダーの光点がフッと消える。
全員が息を呑む中、わずか二十秒後、至近距離の海面に“現れた”。
「……なんだ、これは……」
視認カメラが映したその艦影は、現代の大和と酷似していたが、微妙に異なる。副砲や高角砲の配置、艦首の甲板構造が古い――いや、1945年仕様だ。
しかし、その上には現代のイージス艦や空母から移設された最新鋭のレールガンやVLSセルが違和感なく融合していた。
「まさか……二隻あるのか?」
誰かが呟いたが、誰も答えなかった。
その瞬間、観測用の光学映像が一瞬、砂嵐のように乱れ、モニターにあり得ない映像が割り込んだ。
そこには、1945年の沖縄海域。硝煙と爆炎の中、同じ艦影が米艦隊へ向け突進していく光景――まるでホログラムのように、現実の海面に重なっていた。
「……時空が干渉してる」
電子戦将校が低く呟く。
それはただのレーダーグリッチではなかった。
80年前の記憶が、現代に滲み出している。
そして、それは現在沖縄に向かう大和ではなかった。1945年にタイムスリップした海自の艦艇から装備を移植されたもう一隻の大和とだった。
パイロットの記憶は正しかったのだ