第87章 封印された議題
都内・衆議院議員会館 内部会議室(非公開)
会議室のブラインドは閉め切られ、外からは中の様子がまったく見えない。
テーブルの上には、官邸からの極秘報告資料と、古びた灰皿、冷めたコーヒー。
防衛族のベテラン議員・榊原政調副会長が、低い声で切り出した。
榊原
「今日の協議で、米国の“傘”が条件付きだと分かった。
これでは、国民の命を米国の政治判断に委ねるだけだ」
若手議員
「つまり……我が国も、核抑止力を?」
榊原
「そうだ。現行憲法の解釈内でも、最小限の自衛のための抑止力は保有可能だとする学説はある。
米国頼みでは、今回のように発動保証がない時、抑止の空白が生じる」
元防衛大臣(声を潜めて)
「技術は既にある。原発のプルトニウムを再処理すれば数カ月で試作可能。
弾道ミサイルの母体はH-IIAやイプシロンの改良で代替できる。問題は……政治の覚悟だ」
外務省OB議員(眉をひそめ)
「だが、これをやればNPT体制からの離脱、国際的孤立、経済制裁は避けられない。
それに、中国やロシアが黙っている保証もない」
沈黙の中、若手議員が机を叩いた。
若手議員
「孤立よりも、沈黙よりも、何もしないで核を撃ち込まれる方が国を滅ぼす。
“核アレルギー”を乗り越える時が来たんじゃないですか?」
その瞬間、部屋の空気は重く凍り付いた。
誰も「賛成」とは言わなかったが、否定もしなかった。