第85章 「内なる影、ジャーナリストの眼」
瀬戸内海・《大和》艦内、査問室
艦内の査問室は、冷たい鉄の壁と、一つのテーブル、そして二つの椅子があるだけの、簡素な部屋だった。その椅子の一つに、両手を後ろで拘束された男が座っている。ジャーナリストの野間遼介だ。彼の顔には、擦り傷と、恐怖の表情が浮かんでいた。
「…お前、一歩間違えば射殺されるところだったぞ」
森下一尉が、静かに、しかし冷酷な声で野間に語りかけた。彼の隣には、仁志兵曹長が、険しい表情で立っている。
「なぜ、こんな場所に…なぜ、この艦に潜り込んだ?」
森下の問いに、野間は、震える声で答えた。
「俺は…ジャーナリストだ。この艦に、何か秘密がある。それを知るために…」
「秘密だと?この艦にどんな秘密があるというんだ」
仁志兵曹長が、怒りを滲ませて叫んだ。
「俺はすでに、さまざまな区画を撮影し、この艦が通常の改造レベルではない、最新鋭艦であることを把握している」
「お前は、艦内のどこかに、カメラの撮影データを隠しているな。」
森下一尉は、詰問した。
「この艦の心臓部が外部に知れたらどうなる?中国や北朝鮮が、この艦を沈める決定的な材料になるんだぞ。お前は、この艦、この国を危険に晒したんだ」
「…取引だ。我々は、お前を、この場で解放してやる」
森下は、野間に顔を近づけ、静かに、しかし力強く語った。
「すべてのデジタルデータをこの場で引き渡せ。その代わり、沖縄につくまでは軟禁し、その後は解放してやる」
野間は、一瞬、戸惑いを隠せない様子だった。
「…そうでない場合は、警務隊にひきわたす。すでに、スパイ罪に相当する法令は制定されている、最低でも懲役10年は覚悟しろ」