第79章 「闇の牙、沈黙の出航」
呉港・海上自衛隊潜水艦基地
深夜の呉港、海上自衛隊の潜水艦基地は、漆黒の闇に包まれていた。普段は煌々と照らされている岸壁の照明は落とされ、月明かりだけが、潜水艦「そうりゅう」の巨大な艦体をぼんやりと浮かび上がらせている。
「艦長、出航準備、完了しました」
副長の声が、艦橋に響き渡る。
「よし。ただちに、積み込み作業を開始する。魚雷1本だけだ。迅速に完了しろ」
そうりゅうの艦長は、静かに、しかし力強く命令を下した。
岸壁には、厳重な警備に囲まれ、迷彩のカバーで覆われたトラックが停車している。トラックの荷台からは、小型のクレーンが、厳重に梱包された物体を、ゆっくりと、そして慎重に、そうりゅうの魚雷格納庫へと運び込んでいく。
「予備魚雷1発の搭載、完了。魚雷格納庫に収納。安全装置、ロック」
魚雷室の責任者が、艦橋に報告する。
「よし。ただちに、出航準備。大和の航路の露払いが任務だ。」
そうりゅうの艦長は、静かに、しかし力強く語った。
「そうりゅう」は、大和の出航に先んじて、夜のうちに、静かに呉港を離れていく。その艦内には、この国の未来を賭けた、一つの「牙」が、眠っていた。