第67章 台湾メディア
台北市内の総統府前は、普段の厳粛な雰囲気とは一変し、多くの報道陣でごった返していた。世界各国のテレビ局の中継車がずらりと並び、アンテナが空に向かって伸びている。その中で、台湾の主要テレビ局の女性リポーター、李美玲は、緊張した面持ちでカメラに向かい、刻々と変化する状況を伝えていた。
「はい、こちら台北総統府前です。まもなく、総統による緊急声明が発表される予定です。ご覧のように、ここには世界各国のメディアが集まり、この国の未来に注目しています」
彼女の声は、冷静だが、その瞳には、この国の危機に対する深い憂慮が浮かんでいた。
「侵攻まで、残り30日。中国の軍事行動は、もはや隠しようがありません。台湾政府は、この危機を国際社会に訴え、民主主義国家からの支援を求めています。日本や米国、そして欧州諸国に対し、中国の台湾侵攻を阻止するための、外交的・軍事的な圧力をかけるよう、繰り返し要請しています」
李美玲は、手元の原稿を握りしめ、言葉を続けた。
「しかし、国際社会の反応は、未だ鈍いと言わざるを得ません。米国は、同盟国としての日本の動きを注視していますが、日本国内では、北朝鮮のテロをきっかけに、反戦ムードが高まっています。欧州諸国も、経済的な結びつきを優先し、明確な支援表明には至っていません」
その時、総統府の扉が開き、総統が姿を現した。
「総統が姿を現しました!これから、国際社会に向けた声明を発表します!」
李美玲は、興奮した声で叫んだ。彼女のカメラのレンズは、総統の顔を捉える。その表情には、この国の命運を一身に背負う者の、強い決意が刻まれていた。
「私たちは、自由と民主主義を愛する、平和な国家です。私たちは、決して侵略を望んでいません。しかし、もし、侵略者がこの国の領土を、そして国民の自由を奪おうとするならば…私たちは、最後まで戦い抜くことを誓います!」
総統の言葉は、世界の電波に乗って、国境を越えていく。それは、単なる声明ではなく、この国の国民、そして国際社会に向けた、最後の訴えだった。李美玲は、その言葉を、一言も聞き漏らさないように、必死にメモを取っていた。